概要
バジル(学名 Ocimum basilicum)は、熱帯アジア原産のシソ科ハーブ。西洋薬草学では火星(火星)に支配され、蠍座(蠍座)にも配当される植物とされた。「愛」と「毒・憎悪」という相反する象徴を同時に担う、西洋の植物象徴の中でも特異な二面性を持つ。
語源
「バジル」の名は、ギリシャ語 βασιλικόν(バシリコン、「王の」の意)に由来するとされ、βασιλεύς(バシレウス、「王」)を語根とする。「香草の王」と称されるゆえんとされる。
歴史
大プリニウス『博物誌』(1世紀)には、バジルを罵りながら育てるとよく育つという古代ギリシャの俗信が記されている。中世〜近世ヨーロッパでは、バジルの葉を放置して腐らせるとサソリが自然発生する、あるいは食すと脳内にサソリが生じるという迷信が広まった。ニコラス・カルペパー『イングリッシュ・フィジシャン』(1653年)は、この植物をめぐって当時の著者たちの意見が激しく対立していたことに触れつつ、火星支配・蠍座配当の植物としてバジルを位置づけている。
各伝統における意味
占星術的薬草学
火星が司る攻撃性・毒との対応から、バジルは「危険」を象徴する植物として位置づけられた。カルペパーはこの通説を批判的に紹介しており、これはあくまで当時の占星術的薬草学という体系内部の言説であって、実際の薬効・毒性を示すものではない。
イタリアにおける求愛の象徴
中世末期〜ルネサンス期のイタリアでは、窓辺に置かれたバジルの鉢が、その家に結婚適齢の娘がいることを示す求愛のサインとして用いられたと伝えられる。この民俗的用法は、バジルが持つ「愛」の側面を代表する。
文学
ジョヴァンニ・ボッカッチョ『デカメロン』第4日第5話は、殺された恋人の首を鉢に埋めてバジルを育てる女性リザベッタの悲劇を描く物語である。この物語は、後にジョン・キーツの物語詩『イザベラ、あるいはバジルの鉢』(1818年執筆、1820年発表)の題材となり、ラファエル前派の画家たちにも繰り返し描かれた。
現代文化
料理用ハーブ(特にイタリア料理)として世界的に広く利用されている。
関連ノード
参考文献
- Nicholas Culpeper, Culpeper’s Complete Herbal, 1653(近年版: Wordsworth Editions, 1995). — 占星術的薬草学における惑星対応の一次資料
- Giovanni Boccaccio, The Decameron, Day 4, Novella 5(14世紀). — リザベッタとバジルの鉢の物語の原典
- John Keats, “Isabella, or the Pot of Basil,” 1820. — ボッカッチョを原典とする物語詩