概要
ストーンヘンジ(Stonehenge)は、イングランド南部ウィルトシャー州ソールズベリー平原に位置する新石器時代〜青銅器時代の環状巨石記念物。1986年、周辺の遺跡群とともにユネスコ世界遺産に登録された。18世紀以降、この遺跡を古代ケルトの祭司階級ドルイド(ドルイド)の神殿とする説が広まったが、現在の考古学的年代測定では、ストーンヘンジの主要な建造は紀元前1世紀に歴史記録へ登場するドルイドより2000年以上先行することが判明しており、両者を直接結びつける史実上の根拠はない(この誤った通俗理解の形成過程についてはドルイドを参照)。本項は遺跡そのものの考古学的事実を扱う。
歴史
建造段階
現在の考古学的理解では、ストーンヘンジは紀元前3000年頃から紀元前1520年頃にかけて、複数の段階を経て築かれたとされる。最初の段階(紀元前3100年頃)は円形の堤と溝、および56個の穴からなる「オーブリー・ホール」(17世紀の好古家ジョン・オーブリーにちなむ名称)の掘削であり、この穴からは焼骨(火葬骨)が発見されている。紀元前2600年頃、内側にウェールズ南西部プレセリ丘陵(直線距離で約150マイル、240キロメートル余り)から運ばれた「ブルーストーン」と呼ばれる玄武岩質の石が、二重の弧を描く形で立てられた(放射性炭素年代測定では紀元前2400年〜前2200年頃に現在の配置に整えられたとされる)。続いて紀元前2500年頃、外周を成す巨大な「サーセン石」が立てられ、水平材(リンテル)を渡した「トリリトン(三石塔)」の馬蹄形配置が中心部に築かれた。2020年の地球化学的研究により、サーセン石の産地はストーンヘンジから北へ約25キロメートルのウェスト・ウッズ(マールバラ・ダウンズ)であることが特定されている。
中央の「アルター・ストーン」の産地
中心部に横たわる「アルター・ストーン」については、長らくブルーストーンと同じくウェールズ産と考えられてきたが、2024年に発表された地質学的研究(Nature誌掲載)により、実際には北東スコットランドのオークニー諸島周辺を含む「オークニー堆積盆地」に由来することが明らかにされた。直線距離で700キロメートル以上に及ぶこの移動距離は、新石器時代のヨーロッパにおける単一の巨石の移動記録として最長とされ、当時のブリテン島各地の共同体間に想定以上の広域的な社会的つながりがあったことを示唆する発見として注目されている。
埋葬地としての側面
1919年から1926年にかけての発掘調査で、オーブリー・ホールなどから最大58人分にのぼる焼骨が発見されており、ストーンヘンジは新石器時代後期のブリテン島最大級の火葬墓地の一つでもあったと考えられている。近年のマイク・パーカー・ピアソン率いる「ストーンヘンジ・リバーサイド・プロジェクト」の調査では、これらの焼骨の年代測定や、近隣の集落遺跡ダリントン・ウォールズとの関係についての研究が進み、ストーンヘンジが単なる祭祀施設ではなく、生者の居住域(ダリントン・ウォールズ)と死者を祀る石の記念物(ストーンヘンジ)とが対を成す、広域的な儀礼的景観の一部であったとする見方が有力になっている。
各伝統における意味
現代考古学における用途論争
ストーンヘンジの正確な用途については、天体(夏至・冬至の日の出・日の入り)の観測・儀礼のための施設とする説、死者を祀る記念物とする説、遠方の共同体を結集させる政治的統合の象徴であったとする説など、複数の仮説が併存しており、単一の確定的な結論には至っていない。2024年発表のアルター・ストーンの産地研究は、この最後の「統合の象徴」説を補強する新たな物証として位置づけられている。
現代文化
現在も夏至・冬至の日には、遺跡を管理する英国遺産公社(English Heritage)が一般来訪者に石群への立ち入りを特別に許可しており、現代のネオ・ドルイド主義(ドルイド参照)や異教主義の実践者たちが儀礼を行う場となっている。これは、考古学的には古代ドルイドと無関係な遺跡が、18世紀以降の再解釈を通じて、現代の宗教的実践の舞台として新たな意味を獲得した事例である。
関連ノード
- ドルイド — 18世紀以降にこの遺跡と誤って結びつけられた古代ケルトの祭司階級。誤った通俗理解の形成過程はこちらを参照
参考文献
- Mike Parker Pearson, Stonehenge: Exploring the Greatest Stone Age Mystery, Simon & Schuster, 2012. — ストーンヘンジ・リバーサイド・プロジェクトの成果に基づく標準的研究書
- David J. Nash et al., “Origins of the sarsen megaliths at Stonehenge,” Science Advances, vol. 6, no. 31, 2020. — サーセン石の産地をウェスト・ウッズと特定した学術論文
- Anthony J. I. Clarke et al., “A Scottish provenance for the Altar Stone of Stonehenge,” Nature, vol. 632, 2024, pp. 570-575. — アルター・ストーンの産地をスコットランド北東部と特定した2024年の学術論文