概要
『エステル記』は、旧約聖書に収められる物語文書。ペルシア帝国の王妃となったユダヤ人女性エステルが、同胞への迫害を阻止する物語。ユダヤ教の祝祭プリム(プーリーム)の起源を説明する文書としても機能する。
語源
「エステル」の語源には、ペルシャ語で「星」を意味する語に由来するとする説がある。
歴史
物語の舞台はアハシュエロス王(歴史上のペルシア王クセルクセス1世と同一視されることが多い)治世のペルシア宮廷とされるが、物語自体の史実性については学術的に否定的な見解が有力であり、後代(ヘレニズム期)に成立した歴史小説的な文学作品として位置づけられる。
各伝統における意味
ユダヤ教における位置づけ
旧約聖書中、唯一「神」という語が本文中に一度も登場しない文書として知られる(この特異性については古代から議論の対象となってきた)。ユダヤ人絶滅を企てる大臣ハマンの陰謀を、エステルと従兄モルデカイが阻止する物語が、毎年プリム祭で朗読される。
学術的読解
聖書学者は、本書を歴史記録というより、離散(ディアスポラ)状況にあるユダヤ人共同体の存続への希望を描いた文学作品として読む。
関連ノード
- ダニエル書 — 同様に異国の宮廷を舞台とする旧約聖書後期の物語文書
参考文献
- Adele Berlin, Esther, JPS Bible Commentary, Jewish Publication Society, 2001. — エステル記の標準的学術注解
- James L. Kugel, The Bible As It Was, Harvard University Press, 1997. — 聖書物語の古代における解釈史を扱う学術研究