辞典 / 文献

ヴォイニッチ写本


視点: 歴史 / 錬金術
テーマ: なし

概要

ヴォイニッチ写本(Voynich Manuscript、通称 Beinecke MS 408)は、未知の文字体系で書かれ現在も解読されていない、植物・天文・人体・薬草学らしき図版を多数含む写本。放射性炭素年代測定により15世紀前半に作成されたことが確認されている一方、その文字(「ヴォイニッチ語」と通称される)・図版の意味・作成目的はいずれも判明しておらず、暗号史・文献学における最も有名な未解決問題の一つとされる。

語源

名称は、1912年に本写本を購入したポーランド系アメリカ人の稀覯本商ウィルフリッド・ヴォイニッチ(Wilfrid Voynich)に由来する。写本自体に元々の書名は残っていない。

歴史

放射性炭素年代測定(2009年、アリゾナ大学)により、羊皮紙は1404年-1438年頃のものであることが確認されている。文献上確認できる最古の所有者は17世紀プラハの薬剤師ゲオルク・バレシュで、彼はこの未解読写本についてイエズス会士アタナシウス・キルヒャー(アタナシウス・キルヒャー)に解読を依頼する書簡を送ったことが記録に残っている。バレシュの死後、写本は友人のヨハネス・マルクス・マルツィに渡り、マルツィは1666年にこれをキルヒャーへ送付した。以後写本はローマのコレジオ・ロマーノ(イエズス会の蔵書)に長く保管されていたとみられ、1912年にウィルフリッド・ヴォイニッチがフラスカーティ近郊のヴィラ・モンドラゴーネで古書一括買収の中からこれを発見・購入したことで再び世に知られることとなった。1969年以降、イェール大学バイネキ稀覯本図書館に所蔵されている。

各伝統における意味

未解読暗号としての位置づけ

写本の文字は既知のいかなる自然言語・暗号体系とも一致せず、20世紀には第一次・第二次世界大戦の暗号解読者、冷戦期にはアメリカ国家安全保障局(NSA)の専門家も解読を試みたが、いずれも成功していない。人工言語説、既知言語の暗号化説、無意味な記号の羅列(グロソラリア/自動生成)説、意図的な偽造文書説など、複数の仮説が並立しており、学術的な合意は存在しない。

偽造・悪戯文書説

現代の一部研究者(ゴードン・ラッグなど)は、写本が中世〜近世の書写技法だけで無意味だが規則性を持つ文字列を機械的に生成でき、これを用いてキルヒャーのような同時代の権威ある学者を欺くために作成された悪戯・偽造文書だった可能性を提示している。ただし放射性炭素年代測定の結果とも整合する説かどうかは研究者間で見解が分かれており、確定した結論ではない。

美術

植物図(既知のいかなる植物とも同定できないものが多い)、天体・占星術的とみられる円形図、女性の人体と管状の構造物が描かれた「生物学的」セクション、薬草学的レシピらしき記述を伴う小瓶の図など、複数の主題に分かれた独特な図版群で構成される。

文学

正体不明の暗号文書という性格から、ウンベルト・エーコをはじめとする作家の創作にたびたび着想源として言及されてきた。

現代文化

「世界で最も有名な未解読文書」として広く知られ、暗号解読コミュニティ・陰謀論・フィクション作品で繰り返し取り上げられる。近年は機械学習・自然言語処理を用いた解読の試みも行われているが、いずれも学術的に広く受け入れられた解読には至っていない。

関連ノード

参考文献

関連ノード(発見の質でグループ化)

隣接の発見