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アタナシウス・キルヒャー


視点: ヘルメス思想 / 宗教 / 歴史
テーマ: ヘルメス思想

概要

アタナシウス・キルヒャー(Athanasius Kircher、1602年-1680年)は、ドイツ生まれのイエズス会士・博学者。天文学・地質学・音楽理論・中国学・エジプト学など極めて広範な分野で著作を残し、しばしば「最後の万能人(the last man who knew everything)」と評される17世紀ヨーロッパを代表する学者。古代エジプトのヒエログリフをヘルメス思想的な叡智の暗号と解釈しようと試みたことでも知られる。

コルネリス・ブルーマールトによるアタナシウス・キルヒャーの肖像版画
コルネリス・ブルーマールト『アタナシウス・キルヒャー肖像』(版画、1665年頃)。Public domain, via Wikimedia Commons

歴史

ドイツで生まれ、イエズス会に入会後、数学・東洋語学の教師としてローマのコレジオ・ロマーノで教鞭を執った。生涯にわたり広範な通信網を築き、世界各地の宣教師から届く情報を収集・編纂することで、天文学、磁気学、地質学(火山研究)、音楽理論、中国学、医学など多岐にわたる分野で著作を発表した。中でも『オイディプス・アエギュプティアクス(Oedipus Aegyptiacus)』(1652年-1654年)では、古代エジプトのヒエログリフの解読を試み、これをヘルメス・トリスメギストス(ヘルメス・トリスメギストス)に由来する秘教的智慧の暗号体系として解釈した。この解読は、19世紀にジャン=フランソワ・シャンポリオンがロゼッタストーンを用いて達成した実際の解読とは全く異なる、根拠のない象徴的解釈であったことが後に判明している。

各伝統における意味

イエズス会士としての立場

カトリック教会・イエズス会の枠組みの中で活動した聖職者であり、当時の教会にとって危険視されていたロザリー・クルツ団(薔薇十字団)の実在を巡る論争に対しては、その存在に懐疑的な立場を取った。魔術やオカルト実践そのものを擁護する人物ではなく、あくまで自然哲学・古代学の探究者としてヒエログリフやヘルメス思想に接近した点に注意が必要。

ヘルメス思想・エジプト学への接近

『オイディプス・アエギュプティアクス』では、ヒエログリフを表音文字ではなく、すべてを象徴的・寓意的な記号の集積とみなし、そこにヘルメス思想(ヘルメス思想)やカバラ的な宇宙論を読み込んだ。この誤った前提に基づく解読は学問的には失敗に終わったが、古代エジプトへの学術的関心を大きく喚起し、後世のエジプト学の間接的な先駆として位置づけられることがある。

ヴォイニッチ写本との関わり

17世紀プラハの薬剤師ゲオルク・バレシュが所有していた未解読の暗号写本(後の「ヴォイニッチ写本」、ヴォイニッチ写本を参照)について、当代随一の暗号・古代文字の権威と見なされていたキルヒャーに解読を依頼する書簡が送られた。キルヒャーは結局解読できなかったとされるが、写本はその後キルヒャーのもとに渡り、イエズス会コレジオ・ロマーノの蔵書として長く保管されることになった。

美術

自著の多くに精緻な銅版画による図版を多数収録し、当時のヨーロッパにおける博物学的出版文化を代表する存在でもあった。

哲学

古代の失われた「普遍学(scientia universalis)」への信念を持ち、あらゆる学問分野を統一的に理解しようとする百科全書的な知的態度を貫いた。

現代文化

ヴォイニッチ写本の正体を巡っては、キルヒャー自身、あるいはキルヒャーを騙すために同時代人が作成した意図的な偽造文書(ハプスブルク家の学者を欺くための悪戯)だったとする説が現代の一部研究者から提示されており、キルヒャーの名は同写本を巡る現代の議論に繰り返し登場する。

関連ノード

参考文献

関連ノード(発見の質でグループ化)

由来の発見

隣接の発見