概要
レオノーラ・キャリントンのタロットは、イギリス出身のシュルレアリスム画家レオノーラ・キャリントン(Leonora Carrington、1917年-2011年)が1955年頃、亡命先のメキシコシティで手描きした大アルカナ22枚から成るタロットデッキ。生前は一度も公開されず私蔵されていたが、2017年に彼女の遺品アーカイブの中から発見(再発見)され、2020年にフルグル・プレス(Fulgur Press)から画集『The Tarot of Leonora Carrington』として初めて公刊された。
歴史
キャリントンは1943年以降メキシコシティに定住し、同じくヨーロッパから逃れてきた画家レメディオス・バロ(スペイン出身)、写真家カティ・ホルナ(ハンガリー出身)と親密な交友関係を結んだ。3人は魔女術・錬金術・タロット・グルジェフの教えなどへの強い関心を共有し、後年「3人の魔女」と通称されるほど、この時期のキャリントンの制作活動は神秘思想と深く結びついていた。タロットデッキが実際に制作されたのはこの交友関係が最も濃密だった1950年代半ばと推定される。
デッキは板に厚く絵具を重ね、金箔・銀箔を用いた鮮やかな彩色を特徴とし、正方形に近い判型を取る。キャリントン自身がこの作品について公に語ることはなく、長らく存在が知られていなかったが、研究者テレ・アルクとスーザン・アバースがキャリントンの遺品アーカイブを調査する過程でこれを発見した。2018年、キャリントン生誕100周年を記念する展覧会「Leonora Carrington: Magical Tales」で初めて一般公開され、2020年には実物大の複製図版と解説を収めた画集としてフルグル・プレスから刊行された(息子ガブリエル・ワイズ・キャリントンによる序文を収録)。反響の大きさを受け、後に大幅増補した第2版も刊行されている。
各伝統における意味
シュルレアリスムと秘教思想の融合
キャリントンは生涯を通じて、錬金術・カバラ・ケルト神話・メソアメリカの精神文化など多様な秘教的関心を自身の絵画世界に取り込み続けた画家であり、このタロットデッキもその延長線上に位置づけられる。「愚者」(愚者)を青白い色調の肖像として、「女帝」(女帝)を身重の緑色の姿として描くなど、伝統的なタロット図像の型を踏まえつつ、キャリントン独自の象徴言語で再解釈している点に特徴がある。研究者アバースとアルクは、このデッキを、女性の視座から再構築された秘教的世界観の表明として位置づけている。
現代文化
長年不明であった20世紀シュルレアリスムの「幻の作品」が没後に発見・公刊された事例として、美術界で大きな関心を集めた。
関連ノード
参考文献
- Susan Aberth and Tere Arcq, The Tarot of Leonora Carrington, Fulgur Press, 2020. — デッキの複製図版と解説を収めた基本文献
- Susan Aberth, Leonora Carrington: Surrealism, Alchemy and Art, Lund Humphries, 2004. — キャリントンの絵画世界と錬金術・秘教思想との関係を扱う標準的研究書
- Stefan van Raay, Joanna Moorhead, Teresa Arcq (eds.), Surreal Friends: Leonora Carrington, Remedios Varo and Kati Horna, Lund Humphries, 2010. — キャリントン・バロ・ホルナの交友関係とメキシコでの秘教的関心を扱う研究書