概要
タロット大アルカナの一枚(伝統的に番号0、体系によっては最後尾に置かれることもある)。無邪気さ・新たな始まり・無謀さを表すとされるカード。
図像の変遷
ヴィスコンティ・スフォルツァ版では、身なりの粗末な放浪者が頭に羽根飾りを付け、杖を手に、脚に犬が噛みついている姿で描かれる。マルセイユ版もほぼ同じ構図を受け継ぎ、犬がズボンを引きちぎる滑稽な場面として描かれるが、崖は明確には示されない。ライダー・ウェイト版でウェイトとスミスは新たに断崖の縁・太陽・白い薔薇を描き加え、社会の底辺にいた放浪者の姿を、未知へ踏み出す無邪気な魂の旅路の象徴へと転換させた。
語源
英語 fool はラテン語 follis(「ふいご、空気袋」、転じて「軽薄な人」)に由来するとされる。
歴史
現存最古級のタロットは15世紀イタリアの手彩色デッキ(ヴィスコンティ=スフォルツァ版など、ヴィスコンティ・スフォルツァ版)に遡り、愚者はその頃から既に描かれていた図柄の一つ。当初は占いの道具ではなく貴族階級のカードゲーム用に作られたとする説が有力で、占い目的への転用は18世紀以降のフランスが起点とされる。
各伝統における意味
初期のタロットカードゲーム
初期のタロッキ(タロットを使ったゲーム)では、切り札の最上位または例外札として扱われた。
ゴールデン・ドーン以降のオカルト的解釈
19世紀末の黄金の夜明け団によって体系化された対応表では、愚者は四元素のうち「風(Air)」(風)に配当される(四元素)。これは黄金の夜明け団独自の対応体系であり、15世紀のカード成立時の意図とは無関係な、近代における後付けの解釈である点に注意する。
美術
ライダー・ウェイト版(1909年、アーサー・エドワード・ウェイト(アーサー・エドワード・ウェイト)とパメラ・コールマン・スミス(パメラ・コールマン・スミス)の共同制作)の図像は、崖から一歩踏み出そうとする若者の姿として広く知られる。
心理学
現代のタロット解釈では「無意識の可能性への信頼」を表すとしばしば語られるが、これは20世紀以降のユング心理学の影響を受けたタロット解釈による付加的な読みであり、カード成立当初の意味とは区別する必要がある。
関連ノード
- 四元素 — ゴールデン・ドーンの対応表における配当元素(風)
- 風 — 配当される元素
- path-aleph — 生命の木における配当パス
- アーサー・エドワード・ウェイト — このカードを含むデッキを共同制作した人物
- パメラ・コールマン・スミス — このカードの図像を実際に描いた画家
- ヴィスコンティ・スフォルツァ版 — 現存最古級のデッキとして図柄の起源を論じる際に参照されるデッキ
生命の木から見た整理(任意)
本項は本プロジェクト独自の整理モデルであり、歴史的事実の記述ではない。黄金の夜明け団の対応表では22パスのうちアレフ(א)のパス(path-aleph)に配当されるとされる。
参考文献
- Michael Dummett, The Game of Tarot: From Ferrara to Salt Lake City, Duckworth, 1980. — タロットが15世紀イタリアのトリックテイキングゲームとして始まったことを実証した基礎的な歴史研究
- Ronald Decker, Thierry Depaulis, Michael Dummett, A Wicked Pack of Cards: The Origins of the Occult Tarot, St. Martin’s Press, 1996. — 18世紀末以降のオカルト的再解釈(クール・ド・ジェブラン、エッティラ、レヴィ、黄金の夜明け団)の経緯を扱う
- Arthur Edward Waite, The Pictorial Key to the Tarot, William Rider & Son, 1910. — ウェイト版タロットの意味づけの一次資料
- Israel Regardie, The Golden Dawn: A Complete Course in Practical Ceremonial Magic, 6th ed., Llewellyn Publications, 1989(初版1937-1940). — 黄金の夜明け団内部の対応表の一次資料