概要
ヴィスコンティ・スフォルツァ版は、15世紀ミラノのヴィスコンティ家・スフォルツァ家の宮廷のために制作された手彩色タロットデッキ群の総称。中でも1450年代頃の制作とされる最も揃った1組(通称「ピアポント・モルガン=ベルガモ版」)は、現存する最古級の、実質的にほぼ完全な形で残るタロットデッキとして知られる。
語源
名称は制作を依頼した2つのミラノの名家、ヴィスコンティ家とスフォルツァ家に由来する。フランチェスコ・スフォルツァとビアンカ・マリア・ヴィスコンティの婚姻により両家が結びついたことが、一部のカードに描かれた紋章にも反映されているとされる。
歴史
「ヴィスコンティ・スフォルツァ版」という呼称は、実際には制作時期・依頼主の異なる複数の手彩色デッキ(1440年代とされるより古い「ヴィスコンティ・ディ・モドローネ版(カリー・イェール版)」なども含む)を緩やかに指す通称であり、単一のデッキを指すものではない点に注意が必要である。最も完全な形で伝わる1組は、現在ピアポント・モルガン図書館(ニューヨーク)、アカデミア・カッラーラ(ベルガモ)、ブライデンセ国立図書館(ミラノ)の3館に分蔵されており、このことから「ピアポント・モルガン=ベルガモ版」とも呼ばれる。この最も揃った組でさえ「悪魔」「塔」を含む数枚が現存せず、当初の78枚(あるいは22枚の切り札)が完全な形で伝わる例は一つもない。制作はミラノ宮廷の画家ボニファチオ・ベンボの工房によるとする説が有力とされる。
各伝統における意味
15世紀ミラノ宮廷の遊戯用カード
当時のタロットは占いの道具ではなく、貴族階級の間で行われたトリックテイキング・ゲーム「トリオンフィ」用の贅沢な調度品として制作されたと考えられている。金箔を用いた背景や高級な顔料は、後世の量産的な木版画・銅版画デッキとは性格を異にする、宮廷向けの一点ものとしての制作事情を反映する。
後世のタロット研究における位置づけ
現存最古級のデッキであることから、タロットの起源やその後の図像の変遷を論じる際の基準点として扱われることが多い。タロット史家ガートルード・モークリーは、本デッキの大アルカナの図像・序列がフランチェスコ・ペトラルカ『凱旋』(『凱旋』)の寓意構造をモデルにした可能性を提示したが、この説には異論も多い。また、銅版画によって小アルカナまで図像化したソーラ・ブスカ版(ソーラ・ブスカ版、1491年)とは対照的に、本デッキの小アルカナ(数札)は単純な記号的図柄にとどまる。
美術
国際ゴシック様式の宮廷絵画の伝統を引き継ぎ、金箔地に精緻な人物表現を施した図像を特徴とする。後にタロット・ド・マルセイユ系のような木版画デッキで標準化される図像(教皇・女教皇など)とは異なる、独自の意匠を持つ。
関連ノード
- 『凱旋』 — 大アルカナの図像・序列のモデルとされたことがある(異論のある)文献
- ソーラ・ブスカ版 — 手彩色と銅版画という制作技法の違いを対比させるデッキ
- 悪魔 — 現存する本デッキから欠けているカードの一枚
- 愚者 — 現存最古級のデッキとして図柄の起源を論じる際に参照されるカード
参考文献
- Gertrude Moakley, The Tarot Cards Painted by Bonifacio Bembo for the Visconti-Sforza Family: An Iconographic and Historical Study, New York Public Library, 1966. — 本デッキの図像研究の古典的(かつ異論のある)基礎文献
- Michael Dummett, The Game of Tarot: From Ferrara to Salt Lake City, Duckworth, 1980. — タロットが15世紀イタリアのトリックテイキングゲームとして始まったことを実証した基礎的な歴史研究
- Stuart R. Kaplan, The Encyclopedia of Tarot, Volume I, U.S. Games Systems, 1978. — 本デッキを含む初期イタリア・タロットの基礎的な図版・記述を収録する標準文献