辞典 / 美術作品

ソーラ・ブスカ版


視点: タロット / 西洋美術 / 歴史
テーマ: タロット

概要

ソーラ・ブスカ版(Sola Busca Tarocchi)は、1491年の年記を持つイタリア・ルネサンス期のタロットデッキ。大アルカナだけでなく小アルカナ(数札)56枚すべてに具体的な人物・情景を描き込んだ、現存する最古級の「完全図像化」タロットとして知られる。手彩色ではなく銅版画で制作された点も、同時代のヴィスコンティ=スフォルツァ版(ヴィスコンティ・スフォルツァ版)などの手彩色デッキとは性格を異にする。名称は制作者ではなく、後年このデッキを所蔵したソーラ・ブスカ家(ミラノの旧家)に由来する。

ソーラ・ブスカ版タロットのカード(1491年の年記、大英博物館蔵)
ソーラ・ブスカ版タロットのカード(1491年の年記、大英博物館蔵)。Public domain, via Wikimedia Commons

語源

「ソーラ・ブスカ」はデッキの図柄や主題ではなく、19世紀にこのデッキを所蔵していたソーラ・ブスカ家の家名に由来する、後付けの通称である。

歴史

一部のカードに刻まれた「1491」という年記と「N.C.」の頭文字(制作者のものと推定される)から、1491年頃、北イタリア(フェラーラまたはヴェネツィアの周辺とされる)で制作されたと考えられている。制作者については、版画家ニコラ・ディ・マエストロ・アントニオ(ダンコーナ)に帰属させる説が有力視されているが、確定はしていない。依頼主・制作の目的についても確たる史料はなく、研究者の間で複数の仮説が並立している。

現存する最も揃った1組は1907年に大英博物館が取得したとされ、これは後述するライダー・ウェイト版タロット(1909年刊行)の制作時期と重なる。

各伝統における意味

15世紀イタリアのタロッキ(トランプ)としての位置づけ

制作当時、タロットは占いの道具ではなく、貴族階級の間で行われたトリックテイキング・ゲーム「タロッキ」用のカードであったと考えられている。大アルカナの図柄は、後にタロット・ド・マルセイユ系(タロット・ド・マルセイユ(マルセイユ版))で標準化される「教皇」「女教皇」などの構成とは大きく異なり、古代ローマ史・聖書・伝説上の人物(カトー、ネブカドネザル、アンフィアラオスなど、必ずしも著名とは言えない人物を含む)を題材とする、独自性の高い図像プログラムを持つ。

近代以降の解釈:錬金術・ヘルメス思想的読解

20世紀後半以降、一部の研究者は小アルカナの人物や持ち物に描かれた道具・図像を錬金術的なシンボリズムと結びつけて解釈する説を提示している。これはデッキの図像を後世の視点から読み解く研究者の解釈であり、1491年当時の制作者・依頼主の意図として実証されたものではない点に注意する。

美術

小アルカナ56枚すべてに物語的な情景を描き込むという手法は、同時代の他のタロットデッキには見られない独自のものであり、後の「完全図像化」タロットの先駆けとされる。

ライダー・ウェイト版タロットへの影響

大英博物館が本デッキを取得した1907年は、アーサー・エドワード・ウェイト(アーサー・エドワード・ウェイト)の依頼でパメラ・コールマン・スミス(パメラ・コールマン・スミス)がライダー・ウェイト版タロット(1909年刊)の図像を制作する直前の時期にあたる。スミスが本デッキを実見したとする説が有力であり、それまで記号的な図柄にとどまっていた小アルカナ全56枚に具体的な情景を描き込むという着想は、本デッキから影響を受けたとする見方が多くのタロット研究者によって示されている。ただし、スミス自身がこの影響関係を明言した一次資料は確認されておらず、状況証拠に基づく研究者の推測である点は明記しておく。

関連ノード

参考文献

関連ノード(発見の質でグループ化)

隣接の発見