辞典 / 概念

至高天(エンピレアン)


視点: 哲学 / 宗教 / 西洋美術 / 文学
テーマ: なし

概要

至高天(エンピレアン、Empyrean)は、古代・中世の宇宙論において想定された、天球構造の最も外側かつ最上位に位置する天を指す概念。純粋な火(あるいは光・アイテール)から成るとされ、恒星天や惑星の諸天球よりもさらに上位にあって、神そのものの住まうとされる、物質を超えた非物質的な領域として位置づけられた。

語源

「エンピレアン」はギリシャ語の形容詞「エンピュロス(ἔμπυρος、火の中にある、火に満ちた)」に由来し、この天が古典的な四元素のうち最も上位・最も精妙な元素とされる「火(四元素)」から成ると考えられたことに基づく。

歴史

アリストテレスに由来する古代ギリシャの宇宙論では、月下界の四元素(地・水・風・火)とは異なる、天球を構成する第五の元素(アイテール、エーテル)が想定された。この発想が後にキリスト教の宇宙論に取り込まれる過程で、恒星天のさらに外側に、神とその祝福された者たちの住む非物質的な「至高天」という観念が形成された。中世スコラ神学において、至高天は物質的な天球運動の外側にあるがゆえに時間・空間を超越した領域とされ、恒星天・諸惑星天とは性質を異にするものとして体系化された。

14世紀初頭、ダンテ・アリギエーリは『神曲』「天国篇」において、月・水星・金星・太陽・火星・木星・土星・恒星天・原動天という9つの天球のさらに外側に至高天を配置し、そこを神が純粋な光として顕現し、祝福された魂たちが集う非物質的な領域として描いた。この描写は、中世キリスト教的宇宙論における至高天理解を代表する文学的到達点として広く参照される。

各伝統における意味

中世キリスト教神学

至高天は、天地創造の「第一日目の天」を指す語としても用いられ、神・天使・祝福された魂の住まう場所であり、光と創造の源泉とされた。物質的な諸天球の外側に位置するがゆえに、他の天球のような回転運動を持たない、静止した永遠の領域として理解された。

美術・文学

ダンテの『神曲』「天国篇」における至高天の描写(「一つの点に集約される光の薔薇」のイメージなど)は、中世末期の宇宙論的想像力を代表する文学的表現として、後世の図像・文学に大きな影響を与えた。17世紀イギリスの詩人ジョン・ミルトンも、叙事詩『失楽園』(『失楽園』)において、神と天使たちが住まう「至高天(Empyrean)」を、混沌(カオス)や地獄と並ぶ宇宙の主要な領域の一つとして描いている。

関連ノード

参考文献

関連ノード(発見の質でグループ化)

由来の発見

文脈の発見