概要
四元徳(枢要徳、cardinal virtues)は、思慮(プルデンティア)・正義(ユースティティア)・剛毅(フォルティトゥード)・節制(テンペランティア)の四つからなる、西洋の倫理思想における基本的な徳の分類。古代ギリシャ哲学に起源を持ち、キリスト教神学に取り込まれた後、中世〜ルネサンス期の西洋美術で女性の擬人像として繰り返し表現された。
語源
英語 cardinal はラテン語 cardo(「蝶番、要」)に由来し、他の徳がそこを軸に成り立つ「要となる徳」であることを意味する。
歴史
四元徳の分類は、プラトン『国家』における魂の三区分論(理性・気概・欲望)とそれに対応する徳の議論に遡るとされ、後にストア派によって整理された。キリスト教神学は、信仰・希望・愛という「対神徳(神学的徳)」と区別しつつ、この四元徳を自然理性によって到達可能な徳としてアウグスティヌスやトマス・アクィナスらの神学体系に取り込んだ。
各伝統における意味
古代ギリシャ・ローマ哲学
理性による欲望の制御(節制)、困難に耐える強さ(剛毅)、正しい判断力(思慮)、他者との公正な関係(正義)として、魂の調和のとれた状態を構成する四要素とされた。
中世〜ルネサンス期の西洋美術
四元徳はしばしば剣と天秤を持つ正義、鏡と蛇を持つ思慮、柱や折れた柱を持つ剛毅、水を器から器へ移し替える節制という、それぞれ固有の持物を伴う女性の擬人像として、教会の彫刻・祭壇画・寓意画に描かれた。タロットの「正義」(正義)・「節制」(節制)の図像は、この四元徳の擬人像の伝統から直接に引き継がれた二枚である。四元徳のうち思慮・剛毅の二つは、大アルカナには独立したカードとして採用されなかった。
美術
中世〜ルネサンス期の教会美術・寓意画に、四人の女性像が組になって描かれる構図が広く見られる。
哲学
プラトンの魂の三区分論、およびアリストテレスの『ニコマコス倫理学』における徳の議論が、四元徳分類の哲学的背景を成す。
関連ノード
参考文献
- István P. Bejczy, The Cardinal Virtues in the Middle Ages: A Study in Moral Thought from the Fourth to the Fourteenth Century, Brill, 2011. — 四元徳の中世思想史における展開を扱う学術研究
- Rosemond Tuve, Allegorical Imagery: Some Mediaeval Books and Their Posterity, Princeton University Press, 1966. — 四元徳を含む中世寓意的擬人像の図像伝統を扱う基礎的研究