辞典 / 概念

メルカバー


視点: カバラ / 宗教 / 神話
テーマ: 旧約聖書

概要

メルカバー(Merkabah、「戦車」の意)は、『エゼキエル書』第1章に描かれる神の戦車の幻視を出発点として、紀元後1〜6世紀頃に発展した「戦車神秘主義(メルカバー神秘主義)」と呼ばれる神秘主義的伝統・実践を指す概念である。エゼキエルの幻視そのものを記した聖典テキスト(エゼキエル書)とは区別され、その幻視を瞑想・修行を通じて追体験しようとした、後代のラビ・ユダヤ教における神秘主義運動を指す語として用いられる。

歴史

『エゼキエル書』第1章の戦車幻視は、成立当初から神秘的・危険な内容とみなされ、ラビ文献の時代にはその公開講解に制限が課された。この幻視を出発点として、紀元後1〜6世紀頃、特にタルムード時代からその後の「ヘカロート文学(天上の宮殿についての文学)」の時代にかけて、瞑想的な技法によって天上の宮殿群を通過し、神の戦車の幻視に至ろうとする実践的神秘主義の運動が発展した。この運動の実践者たちは、天上の各段階を守護する天使的な門番を、特定の呪文(「印」)によって突破するとされる修行体系を伝えたとされる。

学者ゲルショム・ショーレムは、この戦車神秘主義を、後代の中世カバラの直接の精神的先駆として位置づけ、両者の間に思想的な連続性があることを論じた。実際、メルカバー神秘主義の文献の一部(『メルカバーの様式(マアセー・メルカバー)』など)はショーレム自身によって発見・校訂されており、カバラ以前のユダヤ神秘主義を知る上での一次資料となっている。

各伝統における意味

ユダヤ教・カバラ

メルカバー神秘主義は、理論的には神の戦車の各部位・天上の宮殿の構造を論じつつ、実践的には瞑想を通じてその幻視を追体験することを目指した点で、後の中世カバラにおける神秘体験志向の実践(イフーディームなど)に連なる系譜として位置づけられる。ただし、メルカバー神秘主義それ自体はセフィロトの体系や生命の木(生命の木)といった中世カバラに特徴的な理論的枠組みを持たず、両者は歴史的に区別されるべき別の発展段階である。

関連ノード

参考文献

関連ノード(発見の質でグループ化)

由来の発見