概要
テトラクテュス(Τετρακτύς、「四つ組」の意)は、ピタゴラス教団において神聖視された図形で、点を1・2・3・4個ずつ四段に積み上げた正三角形として表される。合計10個の点から成るこの図形は、数「10」を象徴すると同時に、1から4までの自然数の総和(1+2+3+4=10)として、宇宙の秩序と調和を体現するものとされた。
語源
「テトラクテュス」はギリシャ語で「四つの組」「四要素の集まり」を意味し、図形が四段(1・2・3・4)から構成されることに由来する。
歴史
テトラクテュスの起源はピタゴラス自身に帰されることが多いが、ピタゴラス自身の著作は現存せず、その正確な起源や当時の扱われ方は、後代のアリストテレスや新プラトン主義者たちによる伝聞・再構成を通じてのみ知られる。ピタゴラス教団では入団の誓いの言葉としてテトラクテュスの名が用いられたとする後代の伝承もあるが、これも同様に史料的な制約を伴う。
各伝統における意味
ピタゴラス派の数論
ピタゴラス派は「万物は数である」という思想のもと、数そのものに宇宙論的な意味を見出した。テトラクテュスを構成する1・2・3・4の各数は、それぞれ点・線・面・立体という幾何学的次元に対応づけられ、四数の総和である10は、あらゆる数の根源にして完全性の象徴とされた。また、1:2、2:3、3:4という各段の比率は、後述の音楽的協和音程(オクターブ、5度、4度)の比率と一致するとされ、数の秩序と音楽的調和とを結び付ける思想的基盤ともなった。
音楽と宇宙の調和
弦の長さの比率と音程の関係の発見(ピタゴラス、ピタゴラスに帰される)と結び付けられ、テトラクテュスに内在する数比は、後世「天球の音楽」と呼ばれる、天体運行と音楽的調和とを対応づける西洋思想の系譜にも影響を与えたとされる。
哲学
「万物は数である」というピタゴラス派の根本思想を最も凝縮した形で視覚化した図形として、テトラクテュスはプラトン『ティマイオス』の数的宇宙論をはじめ、後代の新プラトン主義的な数の神秘思想にも影響を及ぼしたとされる。
関連ノード
参考文献
- Walter Burkert, Lore and Science in Ancient Pythagoreanism, trans. Edwin L. Minar, Harvard University Press, 1972. — ピタゴラス派の数論・テトラクテュス研究における標準的学術文献
- Christoph Riedweg, Pythagoras: His Life, Teaching, and Influence, trans. Steven Rendall, Cornell University Press, 2005(原著ドイツ語版2002年). — ピタゴラスとその教団の思想・伝承を扱う近年の標準的研究書