概要
アザゼルは、旧約聖書レビ記16章に登場する贖罪の日(ヨム・キプル)の儀礼上の概念、および旧約偽典『エノク書』(『エノク書』)における堕天使「見張りの天使(ウォッチャーズ)」の指導者格として登場する存在。この2つの用法は成立の系譜が異なる、別個の伝承として区別する必要がある。
語源
「アザゼル」の語源には諸説(「力強い神」を意味するとする説、荒野の悪霊の固有名とする説など)あり、確定した定説はない。
歴史
レビ記16章の贖罪の日の儀礼では、2頭の山羊のうち1頭が「アザゼルのために」荒野に放たれるとされる(もう1頭は神への供物とされる)。この「アザゼルのために」という語句の解釈(固有名詞としての荒野の霊なのか、単に「送り出す」を意味する語なのか)は、古代から議論が分かれている。
各伝統における意味
レビ記における儀礼的用法
罪を負わせた山羊を荒野に追放する儀礼における対象として言及される。英語 scapegoat(スケープゴート、身代わりの山羊)という語は、この儀礼の解釈(16世紀の英訳聖書における「アザゼル」の訳し方)に由来するとされる。
エノク書における堕天使伝承
旧約偽典『エノク書』では、アザゼルは天から人間界に降りた「見張りの天使」たちの指導者格として描かれ、人間に武器の鍛造・化粧・呪術などの禁じられた知識を伝えたとして、神から罰せられたとされる。この物語は、堕天使(堕天使)を巡る「伝承2: 見張りの天使(欲望による堕天)」の中心人物にあたる。レビ記の儀礼的アザゼルと、エノク書の堕天使アザゼルが、名称の一致以上にどの程度直接関連するかは学術的に議論が分かれる。
関連ノード
参考文献
- George W.E. Nickelsburg, 1 Enoch 1: A Commentary on the Book of 1 Enoch, Chapters 1–36; 81–108, Fortress Press, 2001. — エノク書の標準的学術註解、アザゼルの堕天使伝承を扱う
- Jacob Milgrom, Leviticus 1–16: A New Translation with Introduction and Commentary, Anchor Bible, Doubleday, 1991. — レビ記16章の贖罪の日儀礼に関する標準的学術註解