概要
モルペウス(古代ギリシャ語: Μορφεύς、「形作る者」の意)は、夢の中に人間の姿を取って現れるとされる神。眠りの神ヒュプノス(ヒュプノス)の子(複数いるとされる夢の神々「オネイロイ」の一柱)とされる。ヘシオドス『神統記』など最古期のギリシャ神話文献には登場せず、後代のローマ文学、特にオウィディウス『変身物語』(『変身物語』)第11巻で本格的に語られる、比較的成立の遅い神格である。
語源
Μορφεύς はギリシャ語「形(μορφή、morphē)」に由来し、「様々な人の姿に変じる者」を意味するとされる。現代の薬剤名モルヒネ(morphine)は、19世紀にこの神の名にちなんで命名された。
歴史
現存する体系的な記述はオウィディウス『変身物語』第11巻の「ケユクスとアルキュオネ」の逸話に見られ、それ以前の古典期ギリシャ文献には確立した独立の神格として登場しない。この点で、ヒュプノスやニュクスのような古い神統譜上の神々とは成立の層が異なる、ヘレニズム期〜ローマ期に文学的に彫琢された神格である可能性が指摘される。
各伝統における意味
オウィディウス『変身物語』における役割
「ケユクスとアルキュオネ」の逸話では、ヒュプノスの命を受けたモルペウスが、海で遭難死した王ケユクスの姿を模して妻アルキュオネの夢に現れ、夫の死を告げる場面が描かれる。人間の声・仕草・容姿を完璧に模倣する能力を持つ神として特徴づけられる。
現代文化における「夢の神」のイメージ
現代の大衆文化(映画『マトリックス』の登場人物名など)で「夢を司る神」として言及される「モーフィアス」は、この神格に由来するが、古代の原典における役割(人の姿を模して夢に現れる特定の機能)よりも大幅に拡張・脚色された、現代的な再解釈である点に注意が必要。
現代文化
現代英語 morph(変形する)・morphing(映像技術としての変形合成)の語も、この神の名にちなむ連想から一般化した用法とされる。
関連ノード
参考文献
- Ovid, Metamorphoses, trans. A.D. Melville, Oxford University Press, 1986(原著8年頃). — モルペウスの逸話を伝える一次資料
- Timothy Gantz, Early Greek Myth: A Guide to Literary and Artistic Sources, Johns Hopkins University Press, 1993. — 各神話の異伝を古典文献に即して整理した標準的資料集