概要
サマエルは、ユダヤ教の後代の伝承に登場する天使。伝承によって善悪どちらの性格も帯びる両義的な存在として描かれ、「死の天使」「毒の天使」などと呼ばれることもある。後代のキリスト教文脈でサタン(サタン)と同一視されることがあるが、両者は成立の系譜が異なる別個の伝承である。
語源
「サマエル」の語源には、ヘブライ語で「毒」を意味する語に由来するとする説などがあるが、確定した定説はない。
歴史
サマエルへの言及は、タルムード、ミドラーシュ(ユダヤ教の聖書解釈文献群)、後代のカバラ文献など、複数の異なる時代・文脈の文献に散在しており、単一の一貫した人物像として描かれているわけではない。
各伝統における意味
ユダヤ教の伝承(両義的存在として)
一部の伝承ではイスラエルの守護天使や、神の意志を執行する「死の天使」として比較的中立的に描かれる一方、別の伝承ではアダムとエヴァを誘惑した蛇に乗り移った堕天使として、より否定的に描かれることもある。この2つの層は矛盾しており、単一の「正しいサマエル像」は存在しない点に注意する必要がある。
サタンとの後代の同一視
キリスト教圏の一部の文脈で、サマエルがサタンと同一視されることがあるが、これは元来別個の伝承が後代に混同・統合された結果であり、両者の成立史を歴史的に混同してはならない。
関連ノード
- サタン — 後代に同一視されることがある存在(別系統の伝承)
- 天使の位階(九階級) — 上位概念(ただし九階級論とは別系統の伝承)
- リリス — カバラ文献における配偶とされる存在
参考文献
- Gustav Davidson, A Dictionary of Angels, Including the Fallen Angels, Free Press, 1967. — 個々の天使の典拠を整理した参照文献
- Jeffrey Burton Russell, The Devil: Perceptions of Evil from Antiquity to Primitive Christianity, Cornell University Press, 1977. — 悪魔観念の成立史を扱う標準的学術研究