概要
キャサリーン(キャシー、キャティー)・フォックス(Catherine “Kate” Fox、1837年頃生まれ、1892年没)は、1848年ニューヨーク州ハイズヴィルで起きた「ラッピング(叩音)」現象の中心人物の一人で、姉マーガレット(マーガレット・フォックス)とともに近代スピリチュアリズム運動創始の起点となった人物。生涯を通じてマーガレットとほぼ行動を共にしたが、1888年の「詐術告白」に同意せず霊媒業を続けた点で、姉と袂を分かつことになった。
歴史
1848年3月、ニューヨーク州ウェイン郡アーケイディア(現ハイズヴィル)の農家で、当時11〜12歳頃だったキャサリーンと姉マーガレット(当時14〜15歳頃)は、自宅で原因不明の叩音(ラップ音)が繰り返し聞こえると訴えた。姉妹はこの音を、家に埋められた殺害された行商人の霊の仕業と主張し、指を鳴らして「はい」「いいえ」で応答する形の交霊コミュニケーションを考案したとされる。この出来事は「ハイズヴィル事件」として知られる。
同年、長姉リーア(アン・リーア・フォックス・フィッシュ、1813年-1890年)がこの評判に着目し、妹たちの公開実演を組織した。1849年11月14日、ロチェスターのコリンシアン・ホールで行われた公開実演を皮切りに、「ロチェスター・ラッピング」として広く知られるようになり、姉妹の名声は北米各地に広まった。この一連の出来事が、近代スピリチュアリズム運動(死者の霊との交信が可能であるとする宗教的潮流)の始まりとして位置づけられている。
1871年、キャサリーンはイギリスに渡り、ロンドンでイギリスのスピリチュアリスト向けに交霊会を行った。この時期、化学者ウィリアム・クルックスが彼女の霊媒現象を科学的に検証しようと試みた記録が残っており、心霊研究史上しばしば言及される。1872年、ロンドンの法廷弁護士ヘンリー・ジェンケンと結婚し、2人の息子をもうけた。晩年は姉マーガレットともども深刻なアルコール依存に苦しんだと伝えられ、1888年にマーガレットが公にラッピングは指の関節を鳴らす仕掛けによる詐術であったと告白した際も、キャサリーンはこれに同意せず、以後も霊媒としての活動を続けた。1892年7月2日、ニューヨークで死去したとされる(享年55歳前後)。
各伝統における意味
近代スピリチュアリズムの起点として
ハイズヴィル事件そのものは、宗教的教義や体系的な儀礼を伴わない、家庭内の怪異現象という素朴な出来事として始まったが、これが北米・イギリスに急速に広がる「交霊会(セアンス)」文化の出発点となった点で、宗教史・心霊研究史上重要な事例とされる。研究者は、姉妹の実演がもたらした社会的インパクトを、19世紀アメリカにおける女性の公的発言の場の少なさ、死別への慰めを求める大衆心理などと関連づけて論じている。
現代文化
「ラッピング(叩音による霊との交信)」という発想そのものは、後の交霊会文化における定番の演出として、現在もオカルト映画・小説等で言及される。
関連ノード
- マーガレット・フォックス — ともにハイズヴィル事件の中心人物となった姉
参考文献
- Barbara Weisberg, Talking to the Dead: Kate and Maggie Fox and the Rise of Spiritualism, HarperSanFrancisco, 2004. — フォックス姉妹の生涯とスピリチュアリズム運動の起点を扱う標準的評伝
- Ann Braude, Radical Spirits: Spiritualism and Women’s Rights in Nineteenth-Century America, Beacon Press, 1989. — スピリチュアリズム運動と19世紀アメリカ女性史を結びつけた基本文献
- Ruth Brandon, The Spiritualists: The Passion for the Occult in the Nineteenth and Twentieth Centuries, Knopf, 1983. — クルックスによる検証を含む19世紀心霊研究史の概説