概要
『ヨブ記』は、旧約聖書に収められる知恵文学の一書。義人ヨブが理由なく次々と災厄に見舞われる中で、神の正義と人間の苦難の関係を問う対話劇の形式をとる。
歴史
成立年代は諸説あり確定していないが、多くの学者は捕囚期前後(紀元前6世紀頃)を有力視する。散文の枠物語(1〜2章、42章後半)と、韻文による対話部分(3〜42章前半)とで文体・成立層が異なるとする学術的見解が有力である。
各伝統における意味
ユダヤ教・キリスト教内部の教説
冒頭でヨブの災厄は「サタン」(サタン)が神に対しヨブの信仰を試すことを提案した結果として描かれる。ここでのサタンは、後代のキリスト教教義における「神に敵対する悪の権化」としてのサタン像とは異なり、神の御前に仕える一員(告発者・試験者)として描かれている点が聖書学上しばしば指摘される。物語の結末で神は嵐の中からヨブに語りかけ、人間の理解を超えた宇宙の秩序を示すが、ヨブの苦難の理由そのものは明示的には説明されない。
神義論(テオディシー)の古典として
「なぜ義人が苦しむのか」という問いを扱う「神義論」の議論において、西洋思想史上最も繰り返し参照される古典的テキストの一つとされる。
美術
ウィリアム・ブレイク(ウィリアム・ブレイク)の版画連作『ヨブ記の挿絵』(『ヨブ記の挿絵』、1826年)が特に著名。
文学
「ヨブのように耐える」という表現が、忍耐強い苦難への耐性を表す慣用句として今日でも用いられる。
哲学
近代以降、神義論の議論の文脈でカント、ライプニッツなど多くの哲学者が本書を参照してきた。
関連ノード
参考文献
- Carol A. Newsom, The Book of Job: A Contest of Moral Imaginations, Oxford University Press, 2003. — ヨブ記の文学的・神学的分析を扱う近年の標準的学術研究
- James L. Kugel, The Bible As It Was, Harvard University Press, 1997. — 聖書物語の古代における解釈史を扱う学術研究