概要
オノマンシー(Onomancy、人名占い)は、人の名前(文字の数・構成・各文字に割り当てられた数価など)から、その人物の運命・性格・行く末を占おうとする占術。名前と数を結び付ける発想はピタゴラス派(ピタゴラス)の数の神秘思想に由来するとされ、中世末期のイングランドで独自の隆盛を見せた。
語源
ギリシャ語「名前(オノマ、ὄνομα)」+「占い(マンテイア)」に由来する語。
歴史
名前と個人の運命の間に対応関係があるという発想は、古代ギリシャのピタゴラス派に帰されることが多い。ピタゴラス派は数を宇宙の根本原理とみなし、名前を構成する文字にも数価(アイソプセフィア、後のゲマトリア[ゲマトリア]に連なる発想)を割り当てて解釈する体系を発展させた。ラテン語圏を経て中世に受け継がれ、特に12世紀から15世紀にかけてのイングランドで多数の写本にオノマンシーの技法を記した文書が残されており、現存が確認されているものだけで65点以上の写本にオノマンシー関連の記述があるとされる。この時代、聖職者による神学的な立場からは「ピタゴラス派の(ニグロマンシー的な)迷信」として繰り返し非難の対象ともなったが、実践自体は広く行われ続けた。
各伝統における意味
古代ギリシャの数秘思想
ピタゴラス派の伝統的な技法の一つとして、名前を構成する母音の数の偶奇から、身体のどちら側に異常が生じるかを判断する方法や、2人の競争者のうち名前の文字数が多い方が勝つとする方法などが伝えられている。
中世イングランドの実践
中世末期のイングランドでは、病人が回復するか死亡するかを、患者の名前と発病日などの数値情報を組み合わせて占う「命に関わる問いへの回答」としてのオノマンシーが特に発展した。教会当局の非難にもかかわらず広く流布した背景には、生死という深刻な関心事に対する具体的な答えを求める需要があったと考えられている。
関連ノード
- 数秘術 — 名前を数に還元して解釈する点で理論的基盤を共有する伝統
- ピタゴラス — 名前と運命の対応という発想の由来とされる人物
- ニグロマンシー — 中世の教会当局からは同じく「ピタゴラス派の迷信」として並べて非難されたが、死者の霊を扱う技法ではない点で区別される
参考文献
- Katelyn Mesler, “Onomantic Divination in Late Medieval Britain: Questioning Life, Predicting Death,” in Prophecy and Divination in Late Medieval Society, 2020. — 中世イングランドのオノマンシー写本を扱う学術研究
- Sophie Page, Magic in the Cloister: Pious Motion, Alchemy, and Divination in the English Benedictine Monasteries, Pennsylvania State University Press, 2013. — 中世イングランドの修道院における占術実践を扱う学術研究