概要
象徴主義(サンボリスム、Symbolisme)は、19世紀末フランスを中心に興った文学・美術上の潮流。写実主義・自然主義や印象派が重視した客観的な観察対象の再現に背を向け、夢・神話・宗教的幻視・内面的な心象を、直接的な描写ではなく示唆的な象徴によって表現しようとした。担い手の多くが同時代のオカルト復興運動と深く関わっていた点で、本プロジェクトの西洋魔術・薔薇十字運動の文脈とも接続する。
語源
「象徴主義(Symbolisme)」の名称は、1886年にジャン・モレアスが『フィガロ』紙文芸付録に発表した「象徴主義宣言(Manifeste du symbolisme)」に由来する。当初は自然主義・高踏派に対抗する詩の潮流を指す語として提唱され、後に美術批評にも転用された。
歴史
文学面ではシャルル・ボードレールの詩「照応(Correspondances)」を先駆とし、ステファヌ・マラルメ、ポール・ヴェルレーヌ、アルチュール・ランボーらを経て、1886年のモレアスの宣言によって運動として明確化された。美術面では、批評家アルベール・オーリエが1891年にポール・ゴーギャンの作品を「象徴主義」の語で論じたことが画期となり、以後、絵画における象徴主義という括りが定着していった。組織的には、ジョゼファン・ペラダン(ジョゼファン・ペラダン)が主宰した「サロン・ド・ラ・ローズクロワ」(1892年-1897年、6回開催)が、象徴主義絵画の一大公開の場として機能した。
各伝統における意味
オカルティズムとの結びつき
ペラダンは自ら創設した「カトリック薔薇十字教団」(薔薇十字団の名称・象徴を踏まえた近代の自称団体の一つ)の理念のもとにサロン・ド・ラ・ローズクロワを運営し、出品作品を寓意・神話・カトリック的神秘主義を主題とするものに限定し、風景画・静物画・歴史的戦争画・同時代の写実的主題を明確に排除する規約を定めた。この結果、象徴主義絵画とオカルト復興運動とは、19世紀末パリにおいて組織的にも密接に結びつくこととなった。
研究者の見解
美術史研究では、象徴主義を単一の統一された様式・流派としてではなく、実証主義・自然主義への反発という共通の姿勢によって緩やかに結びついた国際的な潮流(フランスのギュスターヴ・モロー、オディロン・ルドン、ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ、ウィーンのグスタフ・クリムト、北欧のエドヴァルド・ムンクなど)として位置づけるのが一般的である。
美術
夢・神話・宗教的幻視・死・エロスといった主題を、暗示的で謎めいた図像によって表現する作風を特徴とする。
文学
ボードレール、マラルメ、ヴェルレーヌ、ランボー、モレアスの宣言などが代表的文献。
現代文化
アール・ヌーヴォーや初期シュルレアリスムへの影響が指摘されるほか、幻想的・退廃的な美意識は現代のポピュラーカルチャーの視覚表現にも影響を残している。
関連ノード
- ジョゼファン・ペラダン — サロン・ド・ラ・ローズクロワを通じて運動を組織した人物
- 薔薇十字団 — ペラダンが名称・理念の一部を借用した先行運動
参考文献
- Rodolphe Rapetti, Symbolism, Flammarion, 2005. — 象徴主義美術史の標準的概説書
- Michael Gibson, Symbolism, Taschen, 1995. — 象徴主義絵画を扱う一般向け概説書
- Jean Pierrot, The Decadent Imagination 1880-1900, University of Chicago Press, 1981. — 世紀末フランスの文学・美術・オカルティズムの交錯を扱う研究