概要
天文図(celestial chart, star chart)は、夜空の恒星・星座の配置を平面上に図示した図表の総称。古代の星表・星座目録に起源を持ち、天球儀・プラニスフィア(平面天球図)など様々な形式で発展した。占星術と天文学がまだ未分化だった時代には、両者に共通する基礎資料としての性格を持っていた。
歴史
古代エジプト・メソポタミアの星の記録に起源をたどることができるが、西洋天文学史上特に重要なのは、2世紀のプトレマイオス(プトレマイオス)が著書『アルマゲスト』にまとめた1000個以上の恒星の位置を記録した星表であり、これは後の西洋の星図作成における基本典拠として長く参照され続けた。1515年、画家アルブレヒト・デューラー(アルブレヒト・デューラー)は、天文学者ヨハネス・シュタビウスとコンラート・ハインフォーゲルの協力のもと、北半球・南半球それぞれの星座を描いた2枚の天文図(プラニスフィア)を木版画として出版した。これは、それまで手書きでしか作られていなかった西洋の天文図の中で、科学的な精密さと版画技術を初めて組み合わせた最初期の印刷天文図とされる。
各伝統における意味
天文学的な機能
恒星の位置を正確に記録し、暦の作成・航海・時刻測定などの実用目的に供する科学的資料としての機能を持つ。
占星術における機能
出生図(ホロスコープ)の作成や、アストロラーベ(アストロラーベ)による惑星位置の計算の基礎資料としても用いられ、天文学と占星術が同一の資料・道具を共有していた時代の実態を反映している。
美術
デューラーの1515年の天文図は、プトレマイオスの星表に基づく正確な星の配置と、ギリシャ・ローマの古典的な図像伝統に基づく擬人化された星座像とを組み合わせた点で、科学と美術が交差する作品として美術史上も評価される。図の四隅には、古代の天文学者アラトス、プトレマイオス、マルクス・マニリウス、アル=スーフィーの肖像が配されており、古代ギリシャ・ローマとイスラム世界という異なる天文学の系譜が並置されている点も特徴的である。
関連ノード
- アルブレヒト・デューラー — 最初期の印刷天文図を制作した画家
- アストロラーベ — 天文図の情報を計算に応用する関連器具
- プトレマイオス — 後世の天文図の基本典拠となった星表の作成者
参考文献
- Owen Gingerich, “Sacrobosco as a Textbook,” Journal for the History of Astronomy, 1988(デューラー天文図の学術的背景を含む関連研究).
- Elly Dekker, Illustrating the Phaenomena: Celestial Cartography in Antiquity and the Middle Ages, Oxford University Press, 2013. — 古代から中世にかけての天文図の歴史を扱う標準的学術研究
- Ian Ridpath, “Star Tales: The Dürer Hemispheres,” ianridpath.com(デューラー天文図の詳細な図像解説)