概要
ペンタグラマトン(Pentagrammaton、YHShVH、יהשוה)は、神聖四文字テトラグラマトン(YHVH、יהוה)の中央に、ヘブライ文字シン(ש)を挿入して得られる五文字の神名。キリスト教カバラの祖とされるヨハネス・ロイヒリン(ヨハネス・ロイヒリン)が主著『奇跡をもたらす言葉について』(De Verbo Mirifico、1494年)で提示した議論の中核をなす概念で、イエスのヘブライ語名「イェホシュア」に音韻的に近いこの語を、神の御名にイエスの受肉を告げる文字が加わったものと解釈し、イエスこそがメシアであることの言語的証左として位置づけた。
語源
「ペンタグラマトン」はギリシャ語「ペンテ(5)」と「グランマ(文字)」を組み合わせた近代の造語で、四文字からなる「テトラグラマトン」に対応させて用いられる。YHShVHという語形自体は、ヘブライ語聖書には登場しない、ロイヒリンによる神学的構成物である。
歴史
1494年、ロイヒリンは対話形式の著作『奇跡をもたらす言葉について』において、プフォルツハイムに集った登場人物たちの議論という形式のもと、神聖四文字YHVHの中央にシンの文字を挿入したYHShVH(イェホシュアに通じる語形)こそが「奇跡をもたらす言葉」であると論じた。この主張は、ヘブライ語の神名解釈を用いてキリスト教の教義的真理を論証しようとする、キリスト教カバラの草創期を代表する試みであった。ロイヒリンは1517年の『カバラの術について』(De Arte Cabalistica)でもこの議論をさらに展開した。
各伝統における意味
キリスト教カバラ
ペンタグラマトンは、旧約の神名(テトラグラマトン)が新約における受肉(イエス・キリスト、イエス・キリスト)によって「完成」されるという神学的主張を、文字操作という形で視覚的・言語的に表現したものと位置づけられる。この解釈はユダヤ教の伝統的な神名観とは全く異なる、ルネサンス期キリスト教独自の再解釈であり、ロイヒリン以後、コルネリウス・アグリッパら後続のキリスト教カバラ・ヘルメス思想の系譜に大きな影響を与えた。
ユダヤ教・カバラ
ユダヤ教およびユダヤ・カバラの伝統においては、YHShVHという語形自体は認められておらず、この概念はキリスト教側の神学的読み替えとして明確に区別される必要がある。
関連ノード
- ヨハネス・ロイヒリン — ペンタグラマトンの概念を提示した人物
- イエス・キリスト — ペンタグラマトンが指し示すとされる存在
- カバラ — 文字操作の技法的基盤となった伝統
参考文献
- Charles Zika, “Reuchlin’s De Verbo Mirifico and the Magic Debate of the Late Fifteenth Century,” Journal of the Warburg and Courtauld Institutes, vol. 39, 1976, pp. 104-138. — 『奇跡をもたらす言葉について』とペンタグラマトン論の思想史的位置づけを扱う学術論文
- Johannes Reuchlin, On the Art of the Kabbalah (De Arte Cabalistica), trans. Martin and Sarah Goodman, intro. G. Lloyd Jones, University of Nebraska Press, 1993(原著1517年). — ロイヒリンがペンタグラマトン論をさらに展開した後続著作の標準的英訳版