辞典 / 人物

イエス・キリスト


視点: 宗教 / 歴史 / 西洋美術
テーマ: 新約聖書

概要

イエス(ヘブライ語: יֵשׁוּעַ イェーシューア、ギリシャ語: Ἰησοῦς Χριστός イエスス・クリストス)は、紀元1世紀のユダヤに生きた説教者・宗教指導者。キリスト教において神の子・救世主(メシア、ギリシャ語でクリストス)として信仰の中心に置かれる。実在の歴史的人物としての層と、キリスト教教義上の信仰対象としての層は、性質の異なる別個の探求領域として明確に区別する必要がある。

シナイ山聖カタリナ修道院所蔵『パントクラトール(全能者)のキリスト』イコン(6世紀)
『パントクラトール(全能者)のキリスト』イコン(聖カタリナ修道院、シナイ、6世紀、現存最古のキリスト画像の一つ)。Public domain, via Wikimedia Commons

語源

「キリスト」はギリシャ語 Χριστός(クリストス、「油を注がれた者」の意)に由来し、ヘブライ語「メシア(מָשִׁיחַ)」のギリシャ語訳。固有名詞ではなく称号である。

歴史

史的イエス研究(歴史学・聖書学の立場)

近現代の聖書学・歴史学は、新約聖書(特に共観福音書:マタイ・マルコ・ルカ)や同時代のユダヤ・ローマ側の史料(ヨセフス、タキトゥスの断片的言及)を史料批判的に検討し、「史的イエス」の輪郭を再構成しようと試みてきた。学術的にほぼ合意されている事実は限られており、ガリラヤ地方出身であること、洗礼者ヨハネから洗礼を受けたこと、神の国の到来を説く巡回説教者として活動したこと、紀元後30年頃にローマ総督ポンティウス・ピラトゥスの下でエルサレムにて十字架刑に処されたことなどにとどまる。これらは信仰の真偽とは独立した、歴史学的方法によって到達可能な範囲の記述である。

福音書間の記述の違い

新約聖書には4つの福音書(マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネ、四福音書記者を参照)があり、成立時期・重点・神学的立場が異なる。特にヨハネ福音書は共観福音書3書と文体・内容が大きく異なり、より神学的に発展した「高いキリスト論」(イエスの先在性・神性を強調)を展開しているとされる。これらの相違は聖書学において広く認識されている。

各伝統における意味

キリスト教教義(キリスト論)

キリスト教正統教義(325年のニカイア公会議、451年のカルケドン公会議で定式化)では、イエスは「完全な神であり完全な人間」(二性一人格)とされる。処女懐胎、奇跡、十字架上の死とその贖罪的意味、死後の復活と昇天は、いずれも信仰内部の教義であり、史的イエス研究とは異なる層に属する。

誕生をめぐる伝承

マタイ福音書・ルカ福音書に記される降誕物語(ベツレヘムでの誕生、東方の三博士の来訪、ベツレヘムの星)は、両福音書間でも細部が異なり、史的記述というより神学的意図を持った物語として聖書学では扱われることが多い。マタイ福音書は、ヘロデ大王(ヘロデ大王)による「幼児虐殺」を逃れてエジプトに避難したという逸話も伝える。

最後の晩餐と聖杯伝説

十字架刑前夜の「最後の晩餐」(最後の晩餐)で用いられたとされる杯は、中世の聖杯伝説(聖杯伝説)の起点となった。

磔刑・復活

紀元後30年頃、エルサレム郊外での十字架刑(磔刑)による死は史的イエス研究でも比較的高い確度で史実と見なされる一方、その後の復活(復活)はキリスト教信仰の核心をなす教義であり、史実性の検証とは異なる層に属する。

母マリアとの関係

母とされる聖母マリア(聖母マリア)は、キリスト教において特別な崇敬の対象とされる。

三位一体における位置づけ

キリスト教正統教義では、イエスは三位一体(三位一体)における「子」の位格とされる。

聖心信仰

17世紀フランスで成立した「聖心(ハート(心臓))」信仰では、イバラの冠(王冠)と炎に包まれた心臓の図像を通じて、イエスの人類への愛と受難が象徴的に表現される。新約聖書に直接の典拠を持たない、近世に発展した後発の教義である点に注意が必要。

マモンへの言及

マタイ福音書6章24節では「神とマモン(マモン)とに兼ね仕えることはできない」と説き、富への執着と信仰の対立を戒めたとされる。

パウロによる伝道

イエスの直接の弟子ではなかったパウロ(パウロ)は、イエスの死後まもなく回心し、非ユダヤ人世界への伝道を通じてキリスト教の世界宗教化に決定的な役割を果たした。

美術

十字架刑(十字架)の場面をはじめ、西洋美術史において最も繰り返し描かれた主題の一つ。

関連ノード

参考文献

関連ノード(発見の質でグループ化)

隣接の発見