辞典 / 象徴

ハート(心臓)


視点: 象徴 / 宗教 / 神話 / 西洋美術 / タロット
テーマ: 図像学

概要

ハート(心臓)は、愛・感情・信仰の座を象徴する図像。西洋文化圏では、キリスト教における「聖心」信仰と、キューピッド(エロス)の矢に射抜かれる世俗的な恋愛の寓意という、由来の異なる少なくとも2つの系統が並立し、現代の「ハート形」の記号として融合的に流通している。

イバラの冠と光輪に包まれた心臓を両手に掲げるイエス・キリストを描いた「イエスの聖心」の絵画
ポンペオ・バトーニ《イエスの聖心》(1767年)、ローマ、イル・ジェズ聖堂所蔵。Public domain, via Wikimedia Commons

語源

現在流通する左右対称の「ハート形」(♡)の図案の起源には、中世の植物図鑑に描かれたシルフィウム(避妊薬として珍重された古代地中海の植物)の種子の形に由来するとする説など諸説あり、単一の確定した起源は学術的に定まっていない。

歴史

心臓を感情・魂の座とする観念は古代ギリシャ・ローマの医学・哲学(アリストテレスは心臓を思考の座とみなした)に遡る。現在の様式化された「ハート形」の図案が広く流通するようになったのは中世後期からで、宮廷愛の文学・図像と結び付いて発展した。

各伝統における意味

キリスト教(聖心信仰)

17世紀フランスの修道女マルグリット・マリー・アラコックの幻視に由来するとされる「イエスの聖心(Sacred Heart of Jesus)」信仰では、イバラの冠と炎に包まれた心臓の図像が、キリスト(イエス・キリスト)の人類への愛と受難を象徴するものとして描かれる。この信仰は近世に成立した比較的後発のキリスト教内部の教説であり、新約聖書に直接の典拠を持つものではない点に注意が必要。

ギリシャ・ローマ神話(キューピッドの矢)

エロス(クピド、エロス(クピド))が金の矢で人の心臓を射抜くことで恋に落ちさせるという神話的観念は、後の西洋美術・文学における「矢に射抜かれたハート」の図像的定型の起源とされる。タロットの「恋人」カード(恋人)の図像的背景ともなっているエロス神話は、宗教的な聖心信仰とは系譜の異なる、世俗的な恋愛表象の伝統である。

ルノルマンカード

ルノルマンカード(ルノルマンカード)では、ハートは愛情・人間関係・感情面での事柄を直接的に象徴するカードとして用いられる。上記2つの伝統が担ってきた宗教的・神話的な重層性からは独立した、現代的で直接的な意味づけである。

哲学

古代ギリシャの心臓中心説(アリストテレス)と、後の脳中心説(後代の生理学)の対立は、感情・思考の座をどこに置くかという西洋哲学史上の論点として知られる。

現代文化

現代では「♡」の記号として、恋愛感情から広く「好意・支持」全般を表す汎用的な記号へと意味が拡張され、キリスト教・神話上の由来を離れて日常的に使用されている。

関連ノード

参考文献

関連ノード(発見の質でグループ化)

隣接の発見