概要
エロース(古代ギリシャ語: Ἔρως)はギリシャ神話における愛の神。ローマ神話ではクピド(Cupido、英語 Cupid=キューピッド)と呼ばれ、こちらの名の方が西洋美術・現代文化では広く知られている。
語源
Ἔρως はギリシャ語で「(性愛的な)愛」そのものを意味する普通名詞でもある。
歴史
ヘシオドス『神統記』など初期の伝承では、エロースは原初の神格の一柱として宇宙生成に関わる存在とされたが、古典期以降はアプロディーテ(アプロディーテ)の子である幼い有翼の神として描かれることが一般化した。この2つの層(原初神としてのエロースと、アプロディーテの子としてのエロース)は成立時期の異なる別系統の伝承である。
各伝統における意味
ギリシャ・ローマ神話
弓矢を持つ姿で描かれ、その矢に射られた者は恋に落ちるとされる。この「矢に射抜かれる」という観念が、後の西洋美術・文学における「矢に射抜かれたハート」(ハート(心臓))という図像的定型の起源となった。プシューケー(人間の娘)との恋愛譚(アプレイウス『黄金の驢馬』所収)は、ローマ時代の代表的な物語として知られる。また、怪物テュフォン(テュフォン)から逃れるためアプロディーテとともに魚に変じたという神話は、黄道十二宮の魚座(魚座)の由来神話としても語られる。
西洋美術
ローマ名クピド(キューピッド)としての図像が、ルネサンス以降の西洋美術で広く用いられた。羽の生えた幼児の姿(プットー)で描かれる図像は、古典期の青年像とは異なる、ルネサンス期に定着した表現である。
美術
弓矢を持つ有翼の姿。ルネサンス以降は幼児(プットー)としての図像が定着した。
哲学
プラトン『饗宴』では、エロースを巡る複数の演説を通じて「愛とは何か」が哲学的に論じられ、西洋哲学における愛の概念の重要な起点の一つとなった。
関連ノード
- アプロディーテ — 母(古典期以降の伝承)
- 恋人(タロット) — 初期のタロット図像でキューピッドとして描かれた
- 魚座 — 変身譚の由来神話
- テュフォン — 変身の原因となった怪物
- ハート(心臓) — 矢に射抜かれる図像的定型の起源
参考文献
- Walter Burkert, Greek Religion, trans. John Raffan, Harvard University Press, 1985. — ギリシャ宗教研究の標準的学術文献
- Timothy Gantz, Early Greek Myth: A Guide to Literary and Artistic Sources, Johns Hopkins University Press, 1993. — 各神話の異伝を古典文献に即して整理した標準的資料集
- Plato, Symposium, trans. Christopher Gill, Penguin Classics, 1999(原著紀元前385年頃). — エロースを巡る哲学的議論の一次資料