概要
バアルは、古代カナン(レヴァント地方)の宗教における嵐・豊穣の神。旧約聖書では、イスラエルの民が繰り返し陥る偶像崇拝の対象として、否定的な文脈で言及される。
語源
ヘブライ語・カナン語 בַּעַל(バアル)は「主・所有者」を意味する称号的な語で、単一の神名というより複数の地方神に共通して用いられた称号である。
歴史
ウガリット(現シリア)で発掘された紀元前14〜13世紀頃の粘土板文書に、バアルを主人公とする神話群(バアル・キクル)が伝わり、古代カナン宗教の実態を知る一次史料となっている。旧約聖書の預言書(列王記、ホセア書など)は、イスラエルの民がヤハウェ信仰から離れてバアル崇拝に走ったことを繰り返し批判する。
各伝統における意味
古代カナン宗教
嵐・雨・豊穣を司る主要神として、農耕社会において重要な崇拝対象だった。
旧約聖書における位置づけ
預言者エリヤ(エリヤ)とバアルの預言者たちの対決(列王記上18章)に代表されるように、ヤハウェ信仰の唯一性を脅かす異教の神として、一貫して否定的に描かれる。
後代の悪魔学への影響
中世〜近世の悪魔学では、バアル(バアル・ゼブブなど関連する呼称、ベルゼブブを参照)が悪魔として再解釈され、グリモワール文献にも取り入れられた。これは古代カナン宗教の神格が、対抗する一神教(ユダヤ教・キリスト教)の文脈で悪魔化された典型例とされる。
関連ノード
参考文献
- Mark S. Smith, The Early History of God: Yahweh and the Other Deities in Ancient Israel, 2nd ed., Eerdmans, 2002. — 古代イスラエルにおけるバアル信仰との関係を扱う標準的学術研究
- Wilfred G.E. Watson, Nicolas Wyatt (eds.), Handbook of Ugaritic Studies, Brill, 1999. — ウガリット文書研究の標準的参照文献