概要
エリニュス(古代ギリシャ語: Ἐρινύες、ローマ神話ではフリアイ Furiae)は、ギリシャ神話における復讐・制裁を司る女神たち。特に血族殺し(親殺し・肉親殺し)を犯した者を執拗に追い詰め、狂気に陥れるとされる。
語源
Ἐρινύς の語源には諸説あり確定していない。
歴史
ヘシオドス『神統記』(『神統記』)によれば、クロノス(クロノス)が父ウラノス(ウラノス)を去勢した際に地面に滴った血から生まれたとされる。この誕生譚自体が、彼女たちの本質的な役割(血族間の暴力への制裁)を象徴的に先取りしている。
各伝統における意味
血族殺しへの制裁者
エリニュスが特に厳しく追及するのは、通常の殺人以上に「血のつながった家族間の殺害」であるとされ、この点でギリシャ社会における血族の絆の神聖性を反映した神格とされる。
アイスキュロス『オレステイア』における役割
アイスキュロスの悲劇三部作『オレステイア』では、母クリュタイムネストラを殺害した主人公オレステスをエリニュスたちが執拗に追い詰めるが、最終的にアテナ女神の仲裁により、アテナイの法廷(アレオパゴス)での裁判という新たな正義の形へと移行する筋書きが描かれる。この物語は、血の復讐という古い正義の形態から、法による裁きという新しい秩序への移行を象徴する古典として重要視される。
「慈しみの女神たち」への改名
『オレステイア』の結末では、エリニュスたちはアテナの説得を受け入れ、「エウメニデス(慈しみの女神たち)」という新たな名で敬われる穏やかな守護神へと変容するとされる。この改名は、恐るべき復讐者から都市の守護者への役割の転換を象徴する。
文学
古代アテナイの三大悲劇詩人の一人アイスキュロスの代表作『オレステイア』三部作の中心的存在として、西洋演劇史上重要な位置を占める。
関連ノード
参考文献
- Hesiod, Theogony, trans. M.L. West, Oxford University Press, 1988(原著紀元前700年頃). — エリニュスの誕生譚を伝える一次資料
- Aeschylus, The Oresteia, trans. Robert Fagles, Penguin Classics, 1977(原著紀元前458年). — エリニュスの物語的展開を伝える代表的一次資料