概要
エリス(古代ギリシャ語: Ἔρις、「不和・争い」の意)は、ギリシャ神話における不和・争いを擬人化した女神。英雄ペレウスと海の女神テティスの結婚式に唯一招待されなかったことへの意趣返しとして「黄金の林檎」(林檎(リンゴ))を宴に投げ入れ、パリスの審判(『パリスの審判』)、ひいてはトロイア戦争の遠因を作ったとされる女神として特に知られる。
語源
Ἔρις はギリシャ語で「不和・争い」を意味する普通名詞そのもの。
歴史
ヘシオドス『神統記』・『仕事と日』では、エリスには「善きエリス」(健全な競争心を促す)と「悪しきエリス」(破壊的な争いをもたらす)の2種類が存在するとする、両義的な性格づけがなされている。トロイア戦争の遠因となる黄金の林檎の逸話は、より後代のホメロス関連文献(叙事詩圏の一つ「キュプリア」等)に伝わる。
各伝統における意味
黄金の林檎の逸話
ペレウスとテティスの結婚式に唯一招かれなかったエリスは、意趣返しとして「最も美しい女神へ」と記した黄金の林檎を宴に投げ入れた。この林檎を巡ってヘラ・アテナ・アプロディーテの3女神が争い、審判役を委ねられたトロイア王子パリスがアプロディーテを選んだことが、ヘレネーの誘拐、ひいてはトロイア戦争の遠因になったとされる。
両義的な性格
ヘシオドスが示す「善きエリス(健全な競争)」と「悪しきエリス(破壊的な争い)」という二重の性格づけは、争い・不和という現象自体が持つ両義性(社会を停滞させる破壊的な面と、切磋琢磨を促す建設的な面の両方)を反映した古代ギリシャ人の洞察として、しばしば言及される。
現代文化
「不和の種を蒔く(apple of discord)」という英語の慣用句は、この神話に由来する。
関連ノード
参考文献
- Hesiod, Works and Days, trans. M.L. West, Oxford University Press, 1988(原著紀元前700年頃). — 「善きエリス」「悪しきエリス」の二重の性格づけを伝える一次資料
- Timothy Gantz, Early Greek Myth: A Guide to Literary and Artistic Sources, Johns Hopkins University Press, 1993. — 黄金の林檎の逸話を含む各神話の異伝を古典文献に即して整理した標準的資料集