概要
ルシファー(ラテン語: Lucifer、「光をもたらす者」の意)は、キリスト教の伝統で堕天使(後にサタンと同一視される)の名として広く知られるが、この語は本来「明けの明星」(金星)を指すラテン語の普通名詞であった。
語源
ラテン語 Lucifer は lux(光)と ferre(もたらす)の合成語で、「光をもたらす者」の意。夜明け前に輝く金星(明けの明星)を指す普通名詞として、キリスト教以前から用いられていた。
歴史
旧約聖書イザヤ書14章12節は、没落した「バビロンの王」を「ヘレル・ベン・シャハル(暁の子)」に喩えて嘲る詩である。この「暁の子」がラテン語ウルガタ訳で Lucifer(明けの明星)と訳された。この語自体は当初、堕天使を意味する固有名詞ではなかった。3世紀以降の教父たち(オリゲネスなど)が、この一節を天使の堕落の記述として再解釈し、「ルシファー」を固有名詞として堕天使の名に転用したことで、現在知られる用法が形成された。
各伝統における意味
聖書本文(歴史的文脈)
イザヤ書の当該箇所は、文脈上あくまで特定の人間の王(多くの学者はバビロニア王を指すとする)への風刺であり、超自然的存在への言及ではないとする解釈が、現代の聖書学では有力である。
後代のキリスト教解釈
教父時代以降の再解釈により、「ルシファー」は堕天使(堕天使)の固有名詞、さらにサタン(サタン)そのものと同一視されるようになった。この同一視は聖書本文に直接根拠を持たない、後世の解釈史の産物である点を明確に区別する必要がある。
文学
ジョン・ミルトン『失楽園』における「ルシファー」(作中ではサタンとして描かれる)の劇的な人物造形は、後世のルシファー像に大きな影響を与えた。
関連ノード
参考文献
- Jeffrey Burton Russell, The Devil: Perceptions of Evil from Antiquity to Primitive Christianity, Cornell University Press, 1977. — 悪魔観念の成立史を扱う標準的学術研究
- Jeffrey Burton Russell, Satan: The Early Christian Tradition, Cornell University Press, 1981. — 初期キリスト教における悪魔論の展開を扱う続編
- Henry Ansgar Kelly, Satan: A Biography, Cambridge University Press, 2006. — サタン概念の成立史に関する近年の学術研究
- John Milton, Paradise Lost, ed. Alastair Fowler, 2nd ed., Longman, 1998(原著1667年/1674年). — ルシファー=堕天使イメージを決定づけた近世文学作品