概要
ニュクス(古代ギリシャ語: Νύξ、「夜」の意)は、ギリシャ神話における夜を擬人化した原初の女神。カオスから直接生まれたとされる最古層の神格の一柱で、眠りの神ヒュプノス(ヒュプノス)・死の神タナトス(タナトス)をはじめとする多数の擬人化された観念(運命・欺瞞・非難・老い・争いなど)の母とされる。
語源
Νύξ はギリシャ語で「夜」を意味する普通名詞そのもの。ラテン語 Nox・英語 nocturnal(夜の)などもこの語根に遡る。
歴史
ヘシオドス『神統記』(『神統記』)において、カオスから生まれた最古層の神格の一柱として位置づけられ、兄弟エレボス(幽冥)との間にアイテール(澄んだ大気)とヘメラ(昼)をもうけたとされる。ホメロスの叙事詩でも、大神ゼウスすら畏怖する強大な存在として言及される。
各伝統における意味
原初神としての位置づけ
ニュクス単体の独立した物語(英雄譚のような具体的な神話)はほとんど伝わっておらず、むしろ多数の擬人化された抽象観念(眠り・死・運命・欺瞞・老いなど)の母として、系譜上の要となる存在として扱われる点が特徴的である。
ゼウスすら恐れる存在
ホメロス『イリアス』第14巻では、ゼウスがヒュプノスに怒りを向けようとした際、ニュクスの怒りを買うことを恐れて思いとどまったという逸話が語られ、オリュンポスの主神をも上回る古層の権威を持つ存在として描かれる。
関連ノード
参考文献
- Hesiod, Theogony, trans. M.L. West, Oxford University Press, 1988(原著紀元前700年頃). — ニュクスの系譜を伝える一次資料
- Timothy Gantz, Early Greek Myth: A Guide to Literary and Artistic Sources, Johns Hopkins University Press, 1993. — 各神話の異伝を古典文献に即して整理した標準的資料集