概要
タナトス(古代ギリシャ語: Θάνατος、「死」の意)は、ギリシャ神話における死を擬人化した神。夜の女神ニュクス(ニュクス)の子で、眠りの神ヒュプノス(ヒュプノス)と双子の兄弟とされる。眠りと死が古代ギリシャ人にとって近しい観念として捉えられていたことを示す系譜とされる。
語源
Θάνατος はギリシャ語で「死」を意味する普通名詞そのもの。現代英語の thanatology(死生学)はこの語に由来する。
歴史
ヘシオドス『神統記』(『神統記』)にすでに登場する古層の神格で、ホメロスの叙事詩でもしばしばヒュプノスと対で言及される。エウリピデスの悲劇『アルケスティス』では、死者の魂を冥界へ連れ去る役割を担う登場人物としてタナトスが直接舞台に描かれる、数少ない例の一つとして知られる。
各伝統における意味
ヒュプノスとの対比
双子でありながら、ヒュプノスは穏やかで人間に慈悲深い存在として描かれることが多いのに対し、タナトスはより冷徹で情け容赦のない存在として対比的に描かれる傾向がある。この対比は、眠り(可逆的な意識の喪失)と死(不可逆な生命の終焉)という両者の性質の違いを反映しているとされる。
フロイトの「死の欲動(タナトス)」
20世紀の精神分析学者ジークムント・フロイト(ジークムント・フロイト)は、生への欲動(エロス)と対をなす破壊的・自己解体的な心的エネルギーを指す概念として「死の欲動」を提唱し、後継の論者たちがこれを「タナトス」と呼び慣わすようになった。これは神話上のタナトスとは直接の系譜関係を持たない、20世紀精神分析による比喩的な借用である点に注意が必要。
心理学
フロイトの死の欲動概念は、神話上の神格の名を借りた近代心理学の術語であり、古代ギリシャ人が信仰したタナトスそのものとは区別して理解する必要がある。
関連ノード
- ヒュプノス — 双子の兄弟
- ニュクス — 母とされる夜の女神
- ジークムント・フロイト — 「死の欲動」概念にこの神の名を借用した精神分析学者
- 『神統記』 — 系譜を伝える一次資料
参考文献
- Hesiod, Theogony, trans. M.L. West, Oxford University Press, 1988(原著紀元前700年頃). — タナトスの系譜を伝える一次資料
- Sigmund Freud, Beyond the Pleasure Principle, trans. James Strachey, Standard Edition, W.W. Norton, 1961(原著1920年). — 死の欲動概念の一次資料