概要
『プリマヴェーラ(春)』(Primavera、1480年頃)は、サンドロ・ボッティチェリ(サンドロ・ボッティチェリ)によるテンペラ画。中央にウェヌス(ウェヌス)を配し、三美神(カリテス(優美の三女神))・メルクリウス・フローラ・西風の神ゼピュロスなど、複数のギリシャ・ローマ神話の登場人物が一つの画面に集められた寓意画として知られる。
語源
タイトル「プリマヴェーラ(Primavera)」はイタリア語で「春」を意味する。この呼称は制作当初のものではなく、後世に定着した通称である。
歴史
フィレンツェのメディチ家(ロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコ・デ・メディチ)のために制作されたとされる。制作の正確な経緯・当初の設置場所・依頼の意図については史料が限られており、確定していない部分が多い。
各伝統における意味
図像学的伝統
中央のウェヌスを中心に、向かって右に西風ゼピュロスに追われるニンフのクロリスが花の女神フローラへと変身する場面、左に三美神とメルクリウスが配される(カリテス(優美の三女神)を参照)。これらの人物配置と相互の視線・身振りの意味については、美術史研究者の間で複数の解釈が提示されている。
新プラトン主義的解釈
20世紀の美術史家アビ・ヴァールブルクやエルヴィン・パノフスキーらは、本作をマルシリオ・フィチーノの新プラトン主義(新プラトン主義)哲学(愛の弁証法、「地上の愛」から「天上の愛」への上昇)を視覚化した寓意画として解釈した。この解釈は広く知られているが、あくまで20世紀の美術史研究による一つの読解であり、制作当時のフィレンツェにおける本作の受容のされ方を直接示す史料上の裏付けは限定的である点に注意が必要である。
美術
多数の植物種(約500種と言われる)が緻密に描き込まれていることでも知られ、当時の植物学的関心の高さを示す作品ともされる。
哲学
上記の新プラトン主義的解釈を参照。
関連ノード
- サンドロ・ボッティチェリ — 制作者
- ウェヌス — 中央に描かれる女神
- 新プラトン主義 — 20世紀の美術史研究が見出した解釈の枠組み
- カリテス(優美の三女神) — 左に描かれる三美神
参考文献
- Ernst Gombrich, “Botticelli’s Mythologies: A Study in the Neoplatonic Symbolism of His Circle,” Journal of the Warburg and Courtauld Institutes, vol. 8 (1945), pp. 7–60. — 『プリマヴェーラ』の新プラトン主義的解釈を確立した古典的論文
- Ronald Lightbown, Sandro Botticelli: Life and Work, Abbeville Press, 1989. — ボッティチェリ研究の標準的モノグラフ