概要
新プラトン主義(ネオプラトニズム)は、3世紀の哲学者プロティノスを祖とする哲学の系譜。プラトン(プラトン)の思想を土台としながら、独自の形而上学的宇宙論(「一者」からの流出という体系)を展開し、後の西洋思想・神学・秘教思想に広範な影響を与えた。
語源
「新プラトン主義(Neoplatonism)」という呼称自体は、19世紀以降の近代の学術用語であり、当のプロティノスやその後継者たちは自らを単に「プラトン主義者」と称していた。
歴史
3世紀、ローマ帝国支配下のエジプトで活動したプロティノスが、その弟子ポルピュリオスによって編纂された著作集『エネアデス』を通じてこの思想を後世に伝えた。古代末期を通じてイアンブリコス、プロクロスらによって発展・体系化されたが、6世紀、東ローマ皇帝ユスティニアヌスによる異教哲学学校の閉鎖令を機に、組織的な伝統としては一旦途絶えた。この間、5世紀初頭のマクロビウス『スキピオの夢注解』(『スキピオの夢注解』)は、新プラトン主義の宇宙論を中世ヨーロッパへ伝える主要な経路の一つとなった。15世紀、フィレンツェの人文主義者マルシリオ・フィチーノ(マルシリオ・フィチーノ)がプラトンの全著作とともに新プラトン主義文献をラテン語に翻訳したことで、ルネサンス期ヨーロッパに本格的に復興した。
各伝統における意味
「一者」からの流出という宇宙論
万物の根源である超越的な「一者(ト・ヘン)」から、知性(ヌース)、世界霊魂、物質界へと段階的に「流出」していくとする階層的な宇宙論を展開した。この流出論は、キリスト教の「無からの創造」とは異なる発想であり、後にキリスト教神学と接続される際には理論的な調整が必要とされた。
ルネサンス期の復興とヘルメス思想との結び付き
フィチーノは、新プラトン主義の哲学的枠組みを、同時期に翻訳した『ヘルメス文書』(ヘルメス思想を参照)や占星術的思想と統合し、ルネサンス期特有の秘教的総合を生み出した。この総合は、当時「太古の神学(プリスカ・テオロギア)」として権威づけられたが、実際には複数の異なる時代・思想の融合である点に注意が必要である。
ルネサンス美術への影響
サンドロ・ボッティチェリ(サンドロ・ボッティチェリ)の神話画(『ヴィーナスの誕生』(『ヴィーナスの誕生』)、『プリマヴェーラ』(『プリマヴェーラ』)等)は、20世紀の美術史家によって新プラトン主義的な寓意画として解釈されてきた。特に『プリマヴェーラ』に描かれるカリテス(カリテス(優美の三女神))の輪舞は、「与える・受け取る・返す」という循環的な恩寵の授受を象徴する寓意として再解釈された代表例とされる。ただしこれは後世の学術的解釈であり、画家自身が明示的にそのような意図を記した史料は残っていない点に留意が必要である。
哲学
「一と多」の関係という新プラトン主義的な哲学的問題は、古代末期から中世を通じて、キリスト教神学・イスラム哲学双方に大きな影響を与え続けた。
関連ノード
- プラトン — 思想的土台となった哲学者
- マルシリオ・フィチーノ — ルネサンス期に復興させた人文主義者
- ヘルメス思想 — ルネサンス期に統合された隣接思想
- サンドロ・ボッティチェリ — 思想的背景との関連がしばしば論じられる画家
- 『ヴィーナスの誕生』 — 新プラトン主義的解釈が加えられた代表的絵画
- 『プリマヴェーラ』 — 新プラトン主義的解釈が加えられた代表的絵画
- 三位一体 — 教義論争と交差した哲学的問題
- 『スキピオの夢注解』 — 中世への伝達経路となった文献
- カリテス(優美の三女神) — 『プリマヴェーラ』の寓意的解釈で言及される女神
参考文献
- Lloyd P. Gerson (ed.), The Cambridge History of Philosophy in Late Antiquity, Cambridge University Press, 2010. — 新プラトン主義史研究の標準的学術文献
- Paul Oskar Kristeller, The Philosophy of Marsilio Ficino, trans. Virginia Conant, Columbia University Press, 1943. — ルネサンス期の新プラトン主義復興を扱う古典的研究
- Ernst Gombrich, “Botticelli’s Mythologies: A Study in the Neoplatonic Symbolism of His Circle,” Journal of the Warburg and Courtauld Institutes, vol. 8 (1945), pp. 7–60. — 新プラトン主義的美術解釈を確立した古典的論文