概要
アントワーヌ・クール・ド・ジェブラン(Antoine Court de Gébelin、1725年-1784年)は、フランスのプロテスタント牧師・フリーメイソン・言語学者。タロットが古代エジプトに起源を持つとする説を初めて公にした著述家として、タロットの秘教的解釈の出発点に位置づけられる人物。
歴史
言語・神話・宗教の起源を比較研究する大著『原初世界(Le Monde primitif)』(『原初世界』、全9巻、1773年-1782年)を著した。1781年刊行の第8巻に収められた論考の中で、当時パリのサロンで遊戯として親しまれていたタロットのカードが、実は古代エジプトの叡智の書「トートの書」の断片であり、後世に象徴的な図像の形で伝えられたものだとする説を提示した。
各伝統における意味
タロット・エジプト起源説
クール・ド・ジェブランは、タロットの図像(特に大アルカナ)を古代エジプトの神官階級の知恵を伝える象徴体系として読み解こうとし、タロットを伝えたのはエジプトに起源を持つと当時考えられていたロマ(ジプシー)の民であるという説も併せて提示した。
学術的評価
現代のタロット史研究では、タロットは15世紀の北イタリアで貴族の遊戯用カードとして考案されたことが史料によって裏付けられており、クール・ド・ジェブランのエジプト起源説には歴史的根拠がないことが明らかにされている。しかし、この説自体は、タロットを単なる遊戯具から「秘教的な叡智を宿す象徴体系」へと読み替える近代オカルティズムの出発点として、後続のエッティラ(エッティラ)やエリファス・レヴィ(エリファス・レヴィ)、さらには黄金の夜明け団に至る系譜に大きな影響を与えた点で、思想史的に重要である。
文学
『原初世界』は当時のフランス啓蒙主義期における比較言語学・比較神話学の代表的著作の一つでもあった。
現代文化
タロット・エジプト起源説は歴史的には否定されているが、現代でも一部のタロット実践書・通俗的言説の中で言及され続けている。
関連ノード
- エッティラ — エジプト起源説を継承しタロット占術を体系化した人物
- エリファス・レヴィ — この説を出発点の一つとしてタロット・カバラ対応を発展させた著述家
- ポール・クリスチャン — この説を「古代エジプトの秘儀入門儀礼」の物語として拡張した著述家
- 『原初世界』 — タロット・エジプト起源説を著した主著
- トート・タロット — 「トート」の名にこの説が意識的に踏まえられた20世紀のデッキ
参考文献
- Ronald Decker, Thierry Depaulis, Michael Dummett, A Wicked Pack of Cards: The Origins of the Occult Tarot, St. Martin’s Press, 1996. — タロットのオカルト的再解釈の成立過程を扱う標準的学術研究
- Michael Dummett, The Game of Tarot: From Ferrara to Salt Lake City, Duckworth, 1980. — タロットの実証的な起源史を扱う古典的学術研究