辞典 / 実践

ソロモンの魔術


視点: 西洋魔術 / 宗教 / 歴史 / 文学
テーマ: 西洋魔術 / 悪魔 / 旧約聖書

概要

「ソロモンの魔術」とは、旧約聖書のソロモン王(ソロモン王)が神から授かった指輪あるいは印章の力によって悪魔・精霊を使役したとする伝説を核として、古代末期から近世にかけて発展した一群の魔術文献・実践の総称である。単一の書物や体系を指す言葉ではなく、『ソロモンの鍵』(『ソロモンの鍵』)や『アルス・ゴエティア』(アルス・ゴエティア)を含む、ソロモン王に仮託された複数の文献群と、その背後にある伝説とを包括するジャンル概念として研究者に用いられる。

歴史

ソロモンが霊的存在を支配したとする伝説の最古の文献的痕跡は、擬典(旧約聖書外典)に分類される『ソロモンの遺訓(Testament of Solomon)』というギリシャ語文献に見られる。この文献は、大天使ミカエルから授かった指輪(印章には「五芒星(ペンタルファ)」が刻まれていたと記される)によってソロモンが悪魔たちを使役し、エルサレム神殿の建設に従事させたという物語を伝える。ただしこの文献の成立年代については研究者の間で意見が大きく分かれており、西暦1世紀末から中世盛期まで、諸説が数世紀にわたって併存している点に注意が必要である。ユダヤ教・キリスト教いずれの正典にも含まれたことはない。

この伝説を背景に、中世後期から近世にかけてのヨーロッパでは、ソロモン王の著作として仮託された複数のグリモワール(グリモワール)が作られた。代表的なものに、護符(ペンタクル)の図案と精霊召喚の手順を記した『ソロモンの鍵』、17世紀に編纂された『レメゲトン(ソロモンの小さな鍵)』(その第一部が『アルス・ゴエティア』)などがある。これらの文献の実際の成立年代は、いずれも伝説上のソロモン王の時代(伝承では紀元前10世紀頃)から2000年以上下る。

各伝統における意味

中世〜近世のグリモワール文献群としての「ソロモン系文献」

研究者は、ソロモン王に仮託された一群の魔術文献を指して「ソロモン系文献(Solomonic literature)」と呼ぶことがある。『ソロモンの鍵』、『レメゲトン』(『アルス・ゴエティア』を含む)、記憶術・学問修得の儀礼を記す『アルス・ノトリア』などが、この枠組みの中でしばしば一括して扱われる。これらは互いに独立して成立した異なる文献群でありながら、「ソロモン王が霊を支配した」という共通の伝説的権威づけを共有している点で、一つのジャンルとして扱うことが可能である。

印章の図像: 五芒星から六芒星へ

『ソロモンの遺訓』が伝える最古の印章の図像は五芒星(ペンタルファ)だが、後代の『ソロモンの鍵』などのグリモワール伝統では、六芒星(六芒星(ヘキサグラム))が「ソロモンの封印」として悪霊拘束の護符図形の中心に置かれるようになる。この図像の変遷は、単一の一貫した伝承というより、時代・文献ごとに再構成された象徴体系であることを示している。

研究者の見解

歴史学者は「ソロモンの魔術」を、ソロモン王自身に由来する古代の秘伝としてではなく、古代末期から近世に至る各時代が、権威づけのためにソロモン王という人物像に仮託しながら層状に積み重ねていった文化的構築物として理解する。

文学

『ソロモンの遺訓』は、悪魔一体ずつに名前・能力・弱点を語らせる問答形式を採るなど、後の『アルス・ゴエティア』における72柱の悪魔のカタログ形式に連なる文学的枠組みを先取りしている。

現代文化

「悪魔を使役する王ソロモン」のイメージは、現代のファンタジー作品・ゲームにおける「魔術で使い魔・悪魔を従える王」というモチーフの源流の一つとされる。

関連ノード

参考文献

関連ノード(発見の質でグループ化)

隣接の発見