概要
マルティニスム(Martinism)は、18世紀フランスに端を発する秘教的キリスト教神秘主義の潮流である。フリーメイソン的な位階制度の中で天使的霊との交霊(テウルギー)を実践した神秘家マルティネス・ド・パスカリー(マルティネス・ド・パスカリ)と、彼の弟子であり後に「無名の哲学者」として知られる著述家ルイ=クロード・ド・サン=マルタン(ルイ=クロード・ド・サン=マルタン)という、二つの異なる人物・志向に由来する二重の源流を持つ。19世紀末になって、フランスの医師・オカルティスト、パピュス(パピュス)がこれらの遺産を統合し、正式な結社「マルティニスト教団」として組織化した。
語源
「マルティニスム」の名称は、この潮流の理論的支柱となったルイ=クロード・ド・サン=マルタン(Louis-Claude de Saint-Martin、1743年-1803年)の姓に由来する。ただし、後述するように、その源流にはサン=マルタンの師であるマルティネス・ド・パスカリー(Martinez de Pasqually)の名も深く関わっており、両者の名を混同しないよう注意が必要である。
歴史
マルティネス・ド・パスカリーと「エリュ・コエン」
出自の詳らかでない神秘家マルティネス・ド・パスカリー(1727年頃-1774年)は、1754年頃からフランスのフリーメイソン界に姿を現し、1761年、フリーメイソンの高位階の枠組みを用いた独自の秘教結社「宇宙の選ばれし司祭騎士団(Ordre des Chevaliers Maçons Élus Coëns de l’Univers、通称エリュ・コエン)」を設立した。この結社は、堕落した人間が儀礼的な交霊(テウルギー)の実践を通じて神との一体性(レイスタブリスマン、reintegration)を回復することを目指す、独自の神秘思想を核としていた。
ルイ=クロード・ド・サン=マルタンとその離脱
1768年、若き将校ルイ=クロード・ド・サン=マルタンはマルティネス・ド・パスカリーと出会い、1771年までボルドーで彼の秘書を務め、深い影響を受けた。1774年にパスカリーが西インド諸島サントドミンゴで没すると、エリュ・コエンの組織的な活動は次第に停滞していく。サン=マルタンは、パスカリーが重視した複雑な儀礼的テウルギーから距離を置き、代わって内面的な瞑想と神への直接的帰依を重んじる、より簡素で観想的な神秘主義へと自らの思想を発展させた。彼の著書『誤謬と真理について(Des Erreurs et de la Vérité)』(1775年)などを通じて、この観想的な系譜は「無名の哲学者」の思想として後世に伝えられることとなった。
パピュスによる近代的組織化
19世紀末、フランスの医師でオカルティストのジェラール・アンコース、通称パピュス(1865年-1916年)は、エリュ・コエンとサン=マルタンという二つの源流、さらにジャン=バティスト・ヴィルモーズによる「厳修規律」の系譜を統合し、1891年、盟友オーギュスタン・シャボゾーとともに「マルティニスト教団(Ordre Martiniste)」を正式に創設した。この教団は21名からなる最高評議会を頂点とする組織として整備され、パピュスがその初代総裁に就任した。パピュス自身がエリファス・レヴィ(エリファス・レヴィ)の思想的影響を強く受けていたことは、19世紀末フランスの近代オカルティズム復興運動全体の文脈の中で理解する必要がある。教団は20世紀初頭までに欧州各地・世界各地へと急速に広がり、1900年頃には数百名規模の会員を擁するに至った。
各伝統における意味
カバラとの関係
パピュスによる近代マルティニスムの体系化は、彼が同時に深く関わっていたカバラ(カバラ)の思想と密接に結びついていた。パピュスはマルティニスムを、キリスト教神秘主義とカバラ的な神智学的枠組みを架橋する実践として位置づけ、両者を組み合わせた独自の秘教的総合を志向した。
他の秘教結社との関係
マルティニスト教団は、薔薇十字団(薔薇十字団)をはじめとする同時代の他の秘教的友愛結社と、会員の重複や思想的な交流を通じて緊密な関係を保ちながら発展した。19世紀末フランスのオカルト復興運動は、こうした複数の結社が互いに影響を及ぼし合う、重層的なネットワークとして展開した点に特徴がある。
現代文化
マルティニスト教団は20世紀を通じていくつかの系統に分裂しながらも存続し、現在も世界各地に複数の系譜のマルティニスト結社が活動を続けている。サン=マルタンの観想的な神秘思想は、フランス語圏の秘教研究において「無名の哲学者の学派」として、フリーメイソン的な儀礼結社の伝統とは一線を画す、内面的なキリスト教神秘主義の系譜として独自に評価されている。
関連ノード
- パピュス — マルティニスト教団を正式に創設した近代的組織化の中心人物
- マルティネス・ド・パスカリ — 儀礼的テウルギーを核とする「エリュ・コエン」を興した、二つの源流の一方
- ルイ=クロード・ド・サン=マルタン — 内面的・観想的な神秘主義を展開した、名称の由来となったもう一方の源流
- エリファス・レヴィ — パピュスに影響を与えた近代オカルティズム復興運動の先駆者
- カバラ — パピュスによるマルティニスムの体系化と密接に結びついた神秘思想
- 薔薇十字団 — 19世紀末フランスのオカルト復興運動の中でマルティニスト教団と交流を持った同時代の秘教結社
参考文献
- Christopher McIntosh, Eliphas Levi and the French Occult Revival, rev. ed., State University of New York Press, 2011. — パピュスによるマルティニスト教団創設を含む19世紀末フランス・オカルト復興運動の文脈を扱う研究。
- Arthur Edward Waite, The Unknown Philosopher: The Life of Louis Claude de Saint-Martin, Philip Wellby, 1901. — サン=マルタンの生涯と思想を扱う英語圏における古典的伝記研究。
- Ronald Decker, Thierry Depaulis, Michael Dummett, A Wicked Pack of Cards: The Origins of the Occult Tarot, St. Martin’s Press, 1996. — パピュスの活動とマルティニスト教団創設の経緯を含む近代オカルティズム史研究。