概要
アポロン(古代ギリシャ語: Ἀπόλλων)はゼウスとレトの子で、音楽・予言・弓術・医術・光明を司るオリュンポス十二神の一柱。デルポイの神託で知られる。ローマ神話でも同名アポロ(Apollo)としてそのまま受容された、ギリシャ・ローマ神話の中で数少ない神格の一つ。
語源
Ἀπόλλων の語源には諸説あり、確定した定説はない。
歴史
古典期ギリシャにおいて、デルポイのアポロン神殿の神託(ピュティア)は国家的意思決定にも影響を与えるほどの権威を持った。もともとは太陽神ヘリオスとは別個の神格であったが、ヘレニズム期以降、両者が同一視される潮流が生じた(太陽を参照)。
各伝統における意味
ギリシャ神話
音楽(竪琴)・詩・予言・弓術・医術・牧畜など多様な領域を司る神。デルポイの神託所の主神として、ギリシャ世界全体の宗教生活に大きな影響を持った。医神アスクレピオス(アスクレピオス)の父ともされる。学芸を司るムーサ(ムーサ(学芸の女神))たちの統率者ともされる。ホメロス『イリアス』第1巻には、「スミンテウス(Smintheus、「ネズミ(ネズミ)の」の意)」という異名でアポロンに祈り、ギリシャ軍に疫病をもたらす神官クリューセースの場面が描かれる。
太陽神との同一視
本来アポロンは光明・秩序を司る神であり、天体としての太陽そのものを司る神格はヘリオス(ヘリオス)であった。ヘレニズム期以降、両者の性質の近さから同一視が進んだ。この同一視は後代の宗教的展開であり、古典期以前の両神格を歴史的に混同してはならない。
美術
デルポイの神託、月桂樹(月桂冠、アポロンが求愛したダプネが変身したとされる)を伴う姿などが古典美術の主題として頻出する。ダプネが変身する瞬間を捉えたジャン・ロレンツォ・ベルニーニの彫刻『アポロンとダフネ』(『アポロンとダフネ』)も代表的作例。
哲学
古典期ギリシャの「アポロン的」(秩序・理性・形式)という概念は、後にフリードリヒ・ニーチェ(フリードリヒ・ニーチェ)が『悲劇の誕生』でディオニュソス(ディオニュソス)の「ディオニュソス的」(陶酔・混沌)と対比させたことで、美学・哲学の用語としても広く用いられるようになった。これは近代の哲学的援用であり、古代ギリシャ神話上のアポロン本来の神格とは区別する必要がある。
関連ノード
- 太陽 — ヘレニズム期以降に同一視された天体
- ゼウス — 父神
- アスクレピオス — 医神とされる息子
- ディオニュソス — ニーチェによる哲学的対比の相手
- フリードリヒ・ニーチェ — 対比概念を提唱した哲学者
- ヘリオス — ヘレニズム期以降に同一視された太陽神
- 月桂冠 — ダプネ神話に由来する持物
- 『アポロンとダフネ』 — ダプネ神話を描くベルニーニの彫刻
- ムーサ(学芸の女神) — 統率するとされる学芸の女神たち
- ネズミ — 異名「スミンテウス」の由来となった動物
参考文献
- Walter Burkert, Greek Religion, trans. John Raffan, Harvard University Press, 1985. — ギリシャ宗教研究の標準的学術文献
- Timothy Gantz, Early Greek Myth: A Guide to Literary and Artistic Sources, Johns Hopkins University Press, 1993. — 各神話の異伝を古典文献に即して整理した標準的資料集