概要
タロット大アルカナの1番。意志の力・技術・行動を表すとされるカード。
図像の変遷
ヴィスコンティ・スフォルツァ版の「イル・バガット」は、毛皮縁の帽子と外套をまとった身なりの良い大道芸人が、卓上に道具を並べて座る姿で描かれる。マルセイユ版の「ル・バトゥルール」も同様に市場の手品師・いかさま師で、初期のタロッキでは低い価値の札として扱われた。ライダー・ウェイト版でウェイトとスミスは、卓上の道具を小アルカナ四スートの象徴(杯・剣・杖・ペンタクル)に置き換え、頭上に無限大記号を加えることで、俗世の香具師を宇宙の意志を体現する魔術師へと再定義した。
語源
英語 magician はラテン語 magus(ギリシャ語 μάγος、ペルシアの祭司階級マギに由来)から。
歴史
15世紀のイタリアのデッキでは「奇術師(Il Bagatto)」として、机の上で品玉を操る大道芸人・手品師の姿で描かれていた。「霊的職能者としての魔術師」という読みは近代以降のオカルト的再解釈による。
各伝統における意味
初期のタロット
大道芸人・商人としての世俗的な図像で、当時のカードゲーム内では比較的低い価値の札として扱われた。
ゴールデン・ドーン以降のオカルト的解釈
水星(水星、ヘルメス)に配当される。伝令神ヘルメス/メルクリウスの俊敏さ・技巧という神話的性質が、魔術師の「意志を現実化する力」という近代的解釈と結び付けられた。これは黄金の夜明け団による体系化以降の対応であり、15世紀の図像そのものが水星を意図していたわけではない。
美術
ライダー・ウェイト版では、机の上に四元素を表す道具、杯(杯)・剣(剣)・杖(杖)・ペンタクル(金貨(ペンタクル))を並べた人物として描かれ、頭上には無限大記号(無限大記号(レムニスケート))が配される。この四つの道具は、小アルカナの四つのスートの図像そのものでもある。
関連ノード
- 水星 — ゴールデン・ドーンの対応表における配当惑星
- ヘルメス — 水星の神話的背景
- path-beth — 生命の木における配当パス
- サルバドール・ダリ — 独自のタロットデッキで再解釈した芸術家
- 無限大記号(レムニスケート) — 頭上に描かれる図像
- 杯 — 机上に並べられる小アルカナのスート道具
- 剣 — 机上に並べられる小アルカナのスート道具
- 杖 — 机上に並べられる小アルカナのスート道具
- 金貨(ペンタクル) — 机上に並べられる小アルカナのスート道具
生命の木から見た整理(任意)
本項は本プロジェクト独自の整理モデルであり、歴史的事実の記述ではない。黄金の夜明け団の対応表では22パスのうちベート(ב)のパス(path-beth)に配当されるとされる。
参考文献
- Michael Dummett, The Game of Tarot: From Ferrara to Salt Lake City, Duckworth, 1980. — タロットが15世紀イタリアのトリックテイキングゲームとして始まったことを実証した基礎的な歴史研究
- Ronald Decker, Thierry Depaulis, Michael Dummett, A Wicked Pack of Cards: The Origins of the Occult Tarot, St. Martin’s Press, 1996. — 18世紀末以降のオカルト的再解釈(クール・ド・ジェブラン、エッティラ、レヴィ、黄金の夜明け団)の経緯を扱う
- Arthur Edward Waite, The Pictorial Key to the Tarot, William Rider & Son, 1910. — ウェイト版タロットの意味づけの一次資料
- Israel Regardie, The Golden Dawn: A Complete Course in Practical Ceremonial Magic, 6th ed., Llewellyn Publications, 1989(初版1937-1940). — 黄金の夜明け団内部の対応表の一次資料